第10話 君の名は


 海将補との電話を終えた和磨は、これからの事を考える


 今の通話は盗聴されていた

 デジタル回線に割り込んだ特有のノイズを、元ソナーマンだった和磨の耳は聞き逃さなかった


 となると、水陸機動団が到着する前に仕掛けて来る可能性が高い


 しかし、相手は不正規活動に慣れた本職のスパイ組織だ、戦闘訓練など建前でしか経験の無い和磨にジェームズ・ボンドやイーサン・ハント相手に何とか出来るとは到底思えない


 ならば選択肢は1つしか無い


 彼女を安全な場所へ逃がす


 灘瀬海将補には、逃げるな、逃がすなと言われたが、手遅れになるより余程マシだろう


 箪笥の引き出しから必要と思われる着替えや装備を見繕いながら、ふと気付く


 彼女独りなら、大海原へ逃げ出せば追跡は不可能なのでは?

 だがそれも、万一和磨が捕虜と為り、彼女を誘き寄せる罠に使われては元も子もない


 そう言えば、彼女は何故自分の元へ来たのだろう?


 確か、海中で唄う彼女の歌声にただ一人反応したのが自分だと言っていた


 その程度の相手を人質に取った所で、彼女がノコノコ出て来る道理は無いのではなかろうか?


「ねえ、君はどうして僕の前に現れたんだい?」


「ニンゲンには聴こえない筈のわたしの歌声を聴き取ってくれた初めてのヒト♡とても大切」

 どうも和磨と彼女とで温度差が有る気がする


「でも、もしかすると他にも居るかも知れないよ?これから出会うかも知れない」


 すると彼女は和磨の手を取り、真剣な眼差しでこう告げた


「鯨達が教えてくれた、生き物は皆、子孫を残す為に存在するのだと」

 間違ってはいないけど、それと自分にどんな関係があると言うのか?


「わたしのつがいは、わたしと共に唄ってくれるヒトと決めている」

 ふんふん、なるほど?


「だからわたしの番は和磨しか居ない♡」


 ははーん、そう言う理屈か …… って待て待て?

「雄 … じゃ無い、男の同族だって居るだろう?」


「居ない、わたしは1人だけ」


 なんだよ、そのボッチ

 身につまされるじゃ無いかよ


 確かに彼女の様な生物が存在するなんて、夢にも思わなかったしな

 それにしても地球上にただ1人の存在かぁ


 もしかして、やっぱり地球に不時着した異星人なんじゃ …… ?

「わたしは海で産まれたと鯨達が言っている」


「へえ?そうなんだ」


「ニンゲンの言葉で言うと79年前に、光と共に産まれたのがわたし」

 光と共に …… なんだか神話みたいだけど、ん?79年前って、割と最近だな


 何だろう?

 何か符号めいた感覚が ……


「わたしは海を浄化するチカラが有るんだって」


 何だか話しのスケールが大きく為ってきたな


「海が光った時に、わたしが産まれて居なかったら、この海は " 死の海 " に為っていたと鯨達は言う」


 死の海?

 穏やかじゃ無いな


 海が死の海なら、いずれこの星全体が死の星になるところだ


 凄いな、まるで残留放射能みたいな …… え?待って?放射能?79年前?それって確か ……


 第2次世界大戦後、太平洋の真ん中に在る " ビキニ環礁 " に於いて、人類初の海中原爆実験が行われた


 時に1946年7月1日

 今から79年前の事である


「鯨達はわたしの事を " 姫 " と呼ぶけど、もう一つ呼び方が有るの」


「もしかして、それが名前かな?」


「ニンゲンの言葉では言い表し難いのだけど、プルートゥと言うのがそれよ」


 誰が名付けたか知らないが、疑惑は確信に変わった

 

 

 

 

 

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