第2話 海の唄声


 海中深く潜航する潜水艦は、自動車や航空機の様に有視界で操舵する事は出来ない


 だから「音」を頼りに行動する


 潜水艦とは最高機密の軍事兵器であり、英語表記の Secret Service が示す通り、隠密行動がキモである


 絶対に敵に発見される事無く、静かに敵を葬る


 それが潜水艦に求められる任務だ


 周りの地形や敵の存在を知りたければ、水上艦や対潜哨戒機の様にアクティブソナーを使えば簡単だが、見付かってはならない潜水艦が自ら音を発する事は無い


 アクティブソナーとは、自ら音波を発信し、跳ね返って来た音を頼りにする


 潜水艦の水先案内は水中の音を聴き取り、分析するソナーマンに掛かっている


 熟練のソナーマンは、艦船のスクリュー音やエンジン音から、どの国のどんなタイプの船かを当てるのは勿論、海中の障害物や魚群の種類、遥か彼方で泳ぐ鯨の唄声さえ聴き分ける


 そんな「特殊能力」とでも言える耳を持った和磨も、10年間のソナーマン生活で、自分の常識では測りきれない異常な経験をした事が在った


 祖父のラジカセがビートルズの Yellow Submarine を奏でる


 In the town where I was born

Lived a man who sailed to sea

And he told us of his life

In the land of submarines

So we sailed on to the sun

‘Til we found a sea of green

And we lived beneath the waves

In our yellow submarine


We all live in a yellow submarine ♪

Yellow submarine, yellow submarine ♪


( そうだ間違いない、このリズムだ …… )


 一度だけ、正体不明の海中の唄声を拾った事がある

 遥か南太平洋の真ん中

 深度300mの深海を作戦航行中に、海中を高速移動しながら進む有り得ない奇妙な唄声


 英語では無かったが、この独特のアップテンポなメロディに間違いない


 対音響魚雷デコイにビートルズを奏でさせる酔狂な軍隊が在るかどうかは知らないが、スクリュー音すら無く通常の魚雷なんかより遥かに速く通り過ぎたその対象が何物だったのか ……


 咄嗟に録音した記録は、機密事項として艦長預かりとなり、その後の沙汰は無かった為に、その正体は未だに謎のままだ


 一緒にソナーを担当していた相棒には、ノイズが多くて聴き取れ無かったらしい



 この件は退官しても、決して口外無用と念書を書かされたので、何か新兵器の実験だった可能性もあるかも知れない


 当時は人民解放軍が海洋覇権を求めて原子力潜水艦をロシアから買い、習熟航海真っ最中だったから案外、新兵器と言う可能性も捨てきれない


 ( でも、支那語でも無かったよなぁ …… )


 退官した今となっては気にしても仕方無いし、口外無用なのだから調べる術も無い


 ( 英語の発音に似てたからロマンス語 … 案外ラテン語だったりしてな … )


 欧州の言語は東西問わず、ラテン語が基礎となっていた

 今でも地中海沿岸部では母国語以外にラテン語で話す国は多い


 本当の値段は知らないが、魚雷一発の値段はおよそ一億円と言われる


 最新鋭戦闘機が十数億と言われるが、成り金人民解放軍なら新兵器にとんでも無い金額を掛ける可能性も無くは無い


「戦争なんて金かかるばっかりで、一円にもならないのになぁ …… 」

 思わず呟いたその言葉が、自分の人生を否定するのに気が付く


「なんてな …… なに言ってんだか」


 人が人を殺すのは正気では出来ない


 戦争とは狂気である

 

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