第三章 トキオ、従魔士を生きる

第60話 四ヶ月


 D級に昇格してから四ヶ月が経ち、俺は実家で新年を迎えた。


 大晦日から元日はゆっくりと過ごし、二日には兄貴も東京から帰省して、祖父祖母の家へ家族一同新年の挨拶をしに顔を出した。

 話の流れで夜中に兄貴と二人でラーメンを食いに出掛けた時、「あれからちょっとは落ち着いたか?」と、心配の言葉を掛けられたが、「んー、多分大丈夫」と、煮え切らない答えを返すしか出来なかった。


 正月も明け、の部屋に帰ってくると、溜まった家事と買い出しに時間を取られて、ダンジョンへ潜るまで少し時間が掛かった。

 ……そう、俺はこの四ヶ月の間に、“城下荘”から出て一人暮らしを始めていた。


 無事D級に上がり、最初の一ヶ月間は二十一階層以降を順調に探索していた訳だが、自分というものを受け入れていく中で、やはり地方をなんとかしたいという気持ちも、紛れも無く自分の本心なのだと気付けた。

 だから俺は、ボスに頼んで出張仕事を積極的に振ってもらい、さらに直接協会へ仕事を取りに行ったりもして、三ヶ月間地方を飛び回った。


 そんな数ヶ月ほとんど家に帰らない状態の俺が、枠が限られる城下荘の一部屋を埋めているのは忍びなかったので、これを機に出る事にした。

 まぁ、D級に上がって稼ぎも安定するので、ちょうど良いタイミングだ。




 家事や諸々の用事を済ませ、新年一発目のダンジョン探索へ来た俺は、意気揚々と二十一階層の森林を歩いていた。

 四ヶ月前から変わったところと言えば、サリーに約束していたを渡したぐらいだろうか。


【妖精の杖】

“妖精の枝”を加工して作られた杖

魔法の発動効率が少し上がる


 ダンジョン素材の加工は専門の職人へ依頼が必要たったので、また大きな出費(三十万)となってしまったが、当のサリーが嬉しそうに振り回しているのを見ると、まぁ悪くない出費だったかなと思えた。


 ふと前方の森から、黒と濃い黄色の縞模様が危機感を刺激する立派なトラが姿を現した。


【ウォータイガー】

非常に好戦的なトラ型のモンスター


 本物を生で見た事は無いが、成体よりも少し大きな気がする。


「久々に見たけど、やっぱ厳ついなぁ。俺が動き止めるから、ブルースは足か頭狙っていけ。サリーはちょっと高め飛ぶようにな」

「ガァ!」


 指示を出し、俺が前へ飛び出ると、向こうもこちらの存在に気付いたようで、ヨダレを垂らしながら狂ったように襲い掛かってくる。


「ほい」


 押し倒そうと飛び掛かってくるのをひらりと躱し、着地後すぐに引っ掻いてくる大きな手を剣で受け止める。

 動きが止まり隙だらけになったのを見逃さず、ブルースは鉄棒で後ろ脚を一本叩き折った。


 苦悶の声で鳴き叫ぶウォータイガー。

 そこにサリーの光矢が数本直撃し、運良く一本が右目を潰す。

 俺はすかさず目が潰れて死角になった右側へ体を滑らし、隙だらけの首筋へ向けて両手で握った剣を思いっきり振り下ろした。


 それが完全な致命傷となった為、ウォータイガーは徐々に目から光を失っていき、地面に倒れると魔石を残して姿を消した。


「よーし。ブルースもサリーもナイスや。今のタイミングは完璧やったな」


 二体が褒められて喜んでる中、魔石を拾い上げて鞄へ仕舞うと、俺は再び前へ進み始めた。




 二十三階層。

 出現するモンスターは二十一、二十二階層と特に変わらず、一体一体の強さが上がるぐらいだ。俺達探索者が知る由もないが、おそらく階層が深くなる毎にモンスターのレベルが上がっているのだろう。


 ここまで見てきたモンスターは、オーク、ウォータイガー、そしてコイツ。


「ゥギィィイ!」

「やっぱ糞猿なんかより戦い甲斐あるわ、お前!」



【バトルモンキー】

近接戦を得意とする好戦的な猿型モンスター

身軽な体と大きな拳が特徴



 多分猩々の進化系なんやけど、コイツは突っ込んで来てくれるから楽やわ〜。

 武術とか格闘技では見た事が無い変則的な攻撃もおもろいし。


 ハンマーの様に振り下ろさせる拳を躱し、無防備なアゴに蹴りをお見舞いする。そして、すかさず片方の足首を剣で切り落とし、ブルースがいる方へと蹴り飛ばす。

 後は、ブルースが目の前に転がってきたバトルモンキーを、鉄棒でタコ殴りにして戦闘終了だ。


 三ヶ月前に、ここ二十三階層までの探索は済ませているので、さっさと次の段階へ進む為に二十四階層を目指したい……なんて事を考えていたのだが、ここで一旦探索をストップしなくちゃいけない事態が起きた。


「いやー……ここでか。まぁ、そろそろ来るかもとは思ってたけどな、40


 俺は急いで階段まで戻り、ステータスを開いた。


——————————————————

[名前]シブタニ トキオ

[性別]男 [年齢]19

[ジョブ]従魔士 Lv.40(+10)


[HP]202 / 206(+20)

[MP]86 / 132(+8)


[能力値]

体力 47(+4)

筋力 56(+6)

知力 27

精神 39(+4)

器用 43(+2)

敏捷 45(+4)


[スキル]

ステータス/地図/鑑定/召喚(2/3)

解析/調教/木魔法/〈 ? 〉

——————————————————



「新従魔と新スキルが来たなぁ……何を選ぶかは、ある程度もう決めてるけど。とりあえず、新スキルからいこか」


 スキル一覧を表示し、俺は事前に決めていたスキルを迷わず取得する。


      ・

      ・

      ・

[スキル]

ステータス/地図/鑑定/召喚(2/3)

解析/調教/木魔法/索敵(New)

——————————————————


【索敵】

敵のいる方向や位置が感覚的にわかる


「ほんまはそういうのが得意な従魔がおれば良かったんやけどな。まぁ、自分で出来て損は無いしええか」


 次は新しい従魔やけど……。


——————————————————

【新たに従えるモンスターを選んで下さい】

(2/3)

〈ゴブリン〉〈スケルトン〉〈土トカゲ〉〈ピクシー〉〈魔核スライム〉

〈ウッドパペット〉〈フォールバード〉〈ビッグスネーク〉〈アクアフロッグ〉

——————————————————


「今欲しいのはタンクや……って事で、“ウッドパペット”を選ぶ」


 その瞬間、目の前に新しく従魔となったウッドパペットが姿を現した。


「うーん、この状態やとほんまにタンクが務まんのか心配になるな……」


 この状態でも、Fクラスの中では充分丈夫な方だとわかっているのだが、いかんせん見た目がただの木人形。

 ロックパペットへ進化するのが予想出来ているので、タンクとして選んだ訳だ。あの頑丈さに、大きな鉄盾でも持たせれば充分タンクをこなせると思う。


【新たな従魔に名前を付けて下さい】


「おっ……と、忘れてた。名前付けんとな」


 ウッドパペットの前に突然現れた文字が、名付けを催促してくる。


「これももう決めてんのよ。俺達の盾を担当するって事で、名前は“シールド”から取って“ルド”や」


 俺が頭で“ルド”と念じると、催促の文字は消え、ルドのステータスが現れた。


——————————————————

[名前]ルド

[種族]ウッドパペット Lv.1


[HP]60 / 60

[MP]30 / 30


[能力値]

体力 20

筋力 10

知力 5

精神 10

器用 10

敏捷 5


[スキル]

頑丈

——————————————————


【頑丈】

体力値が二割上昇する

(ステータスには表示されない)


「んー、見事に偏った能力値やな。それに加えて、スキルの“頑丈”がさらに体力を底上げしてる」


 ステータスの表示では体力値が“20”ってなってるけど、実際は“24”って事やな。レベルが上がって能力値が上がれば上がるほど、恩恵が大きくなるスキルって事か……俺もいずれ取るかもな。


「って事で、とりあえずは先にルドのレベル上げやな……」


 俺は今まで進んで来た道を引き返していき、再び転移ゲートを使って十一階層へ移動するのだった。

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