第2話 探索者協会



「暑ぅ……」


 まだ夏休み入ったばっかやって言うのに、暑すぎる……! だから嫌いやねん難波とか梅田みたいな大都会は。

 同じ大阪でなんでこんな体感気温違うねん。緑化せぇ。緑化。


 地元吹田から電車に乗って難波まで足を運んだ俺は、駅を出た瞬間から都会の夏ならではの蒸し暑さにやられて、早々にグロッキーだ。

 それでも、心の中で文句を垂れながら、探索者協会大阪支部までの道を歩いていた。


「このビルか……。こんな暑い中、長距離歩かされんで良かった」


 駅から歩く事五分、想定よりも駅近だった目的地は、ザ・オフィスビルという感じの外観だった。


 暑さから逃げる様にビルの中へ入ると、入り口から正面に案内受付がある。だが、周りを見渡すと、何故か右にも左にも受付が……。


 なんやコレ……。とりあえず目の前の案内受付に行けばええんか?


 真っ直ぐ受付まで歩いていくと、朗らかな笑顔で座っているお姉さんに声を掛けた。


「あのぉ、すいません。探索者登録したいんですけど、何処に行けば出来ますかね?」

「おはようございます。探索者登録ですと、あちらの入り口から見て右側の受付で手続きを承っておりますので、あちらの受付嬢に声を掛けていただければ大丈夫です」

「ありがとうございます。行ってみます」

「いえいえ、頑張ってくださいね」


 か、可愛い……。

 頑張ってくださいね、の「ね」の部分で小さくガッツポーズをしながら見せた笑顔……めちゃくちゃ可愛かった。


 照れながらも会釈を返してその場を離れた俺は、案内された受付へと向かい、再び、これまた違った趣のあるお姉さんに声を掛ける。

 こっちはバリバリ仕事が出来そうなクール系だった。


「すいません、探索者登録したいんですけど、こちらで出来ますか?」

「はい。登録はこちらで間違いありませんよ」

「じゃあお願いします」


「かしこまりました。では、手続きを進めますので書類の提出をお願い出来ますでしょうか? 持参されてなければ、こちらで書いて提出して頂く事も可能ですが」

「いや、持ってきてるんで大丈夫です。これでお願いします」


 そう言うと、俺は背負ってきたリュックから取り出した書類を、お姉さんに手渡す。


「承りました。では、記載されている内容を確認させていただきますね。お名前は渋谷しぶたにトキオ様で間違いありませんか?」

「間違いないです」


 めちゃくちゃ東京に憧れてる奴みたいな名前でしょ?

 クールな顔して腹ん中で笑ってません?


「御年齢は……十八歳になられたばかりなんですね。という事は現役高校生ですか」

「そうですね。一応確認なんですけど、高校生でも十八歳になってれば探索者になれますよね……?」

「問題ありませんよ。少々珍しく感じたので声に出てしまいました。申し訳ありません」

「いえいえ!なら良かったです」


 そう。日本では、探索者として活動出来る年齢は十八歳以上と法律で決まっている。

 十八歳以上であれば高校在学中でも協会で登録出来るが、未満であればどれだけ腕っぷしがあろうが、特殊な才能があろうが、例外無く門前払いされる。

 世界を見れば、年齢関係なく探索者登録が出来る国もあるみたいだが、大体の先進国は一定のボーダーラインを各々で設けている。


「やっぱ在学中に登録するのって珍しいんですかね?」

「そうですね。大体の方々は高校や大学卒業後に登録へ来られます。大学在学中にバイト感覚でって方もいますけど」

「まぁ、ですよね……」


「でも、在学中の登録でも問題はありません。なので確認を続けさせていただきますね」

「あっ、はい」


 一応、在学中から探索者活動しておきたい理由が俺にはある。あるのだが、他所様に聞かれると恥ずかしい理由なので、あまり口に出したくはない……。


「身長は百八十八センチで、体重は八十五キロ……さっきから思ってましたけど、数字で見るとやっぱり大きいですね。まるでアスリートじゃないですか」

「いやぁ、まぁ……たしかに周りと比べて恵まれた体格で産まれたな、とは自分でも思いますけど」


「なにかスポーツなどはされてましたか?」

「んー、スポーツとはまた違いますけど、幼少期から格闘技や武術ばっかり習ってましたね。なので鍛えてはいます、昔から」

「なるほど、だからそんなにガッチリとされて……。渋谷さんは将来有望かもしれませんね」


 あっ……笑った。

 笑った言うてもニコッとした程度やけど、ここに来て初めて見たわ、この人の笑顔……綺麗や。

 さっきの案内してくれた人も可愛かったけど、やっぱ受付嬢とかって顔採用なんかね……?


 どうでもいい疑問が頭を埋め尽くした。


「では、諸々書類の確認は済みましたので、“探索者タグ”が出来るまでは、協会のルールや仕事内容を説明させていただきますね」

「はい、お願いします」


 『探索者タグ』というのは、ドッグタグ型の金属製身分証明書。

 ダンジョン探索時には、ネックレスのように首から下げて携帯する事が義務付けられている。

 今この受付の裏では、タブレットを通して共有された俺の個人情報を元に、文字をタグに打刻だこくしている最中なんだろう。


「まず、探索者というのは、実力や貢献度によって階級分けされているのはご存知でしょうか?」

「はい、流石にそれは知ってますね。FからS級でしたっけ?」

「そうです。登録された探索者の方々は、例外無くF級からスタートしてもらい、実績を示したり、試験に合格したりしていただく事で、ランクアップが可能になっております」

「なるほど」


「後でご確認される事になると思いますが、金属製の探索者タグの縁には、ラバー製の枠が付けられていて、その枠の色でも階級が把握出来るようになっております」

「わかりました」


 これは予備知識として元々知っていた。

 わかりやすくて良いのだが、他者からも把握出来るっていうのは、残酷な部分でもある。


「先に階級について説明させていただいたのは、これから話す協会ルールを理解して頂きやすいからです」

「なるほど」


「探索者の方々が探索可能なダンジョンの階層には、階級によって上限が決められております。F級だと十階層まで、E級は二十階層まで、というふうに段々と更新されていくシステムです。ここまでは大丈夫ですか?」

「……ま、まぁ、なんとか」


 大丈夫……。

 大丈夫なんやけど、これ以上複雑なんは勘弁してくれ。覚えられへん。頼む。


「パーティで活動される場合は、過半数が達している階級までが上限となります。例えばですが、F級二人、E級三人の五人パーティであれば、過半数がE級ですので二十階層までが上限となる訳です」

「な、なるほど……」


「逆に、F級二人、C級一人の三人パーティであった場合は、いくらC級探索者の方が実力ある方だとしても、過半数がF級なので十階層までしか潜る事は許されていません」

「は、はぁ……」


 …………要するに、しばらくソロ予定の俺は、E級に上がるまで十一階層に足を踏み入れるなって事やんな?

 今はそれだけ理解しとけばええやんな?


「違反が発覚した場合は罰金、もしくは探索者資格が剥奪される事もありますので、ご注意願います」

「……わかりました」


 守る守る。絶対ルール守る。


 この後も、細かいルールや、具体的な仕事内容、協会施設の使い方など、いろいろ説明をされたが、半分も頭に入らなかった。

 一応、説明された内容が載ってるパンフレットも渡されたので、後でちゃんと確認して、何日かに分けてゆっくりと頭に入れていくつもりだ。


「これで説明は終了となりますので、晴れて探索者になられた渋谷様には、こちらの探索者タグをお渡しさせていただきます」

「ありがとうございます」


 俺は手渡された白枠の探索者タグを一通り確認して、すぐリュックに仕舞う。

 舞い上がってこの場で身に付ける様な真似はしない。なんか恥ずかしいから。


「これにて登録手続きは終了になりますので、渋谷様のこれからのご健闘を協会職員一同、心から祈っております」

「こちらこそ、今日からよろしくお願いします」


 まぁ、よろしくって言っても、次来るのなんて新しい手続きが必要な時ぐらいやろ。

 けと、一応礼儀はしっかりしとかんとね。


 椅子から立ち上がると、もう一度お姉さんに軽く礼をして、立ち去ろうとする。


「……あっ、そういえばお姉さんなんてお名前ですか?」


 俺は突然思い出したかのように、お姉さんに名前を聞く。


「……あれ?最初にお伝えしませんでしたか?」

「いや、聞いてないと思いますよ。脳内でずっと“お姉さん”呼びやったんで」

「お姉さん……。これは失礼致しました。今回登録の手続きを担当させていただきました、“望月もちづき ひとみ”と申します」


 おぉ……綺麗な名前。

 名が体を表しまくっとるな。


「望月さんですね。急に名前なんか聞いちゃってすいませんでした。ずっとモヤモヤしてたもんで」

「いえいえ、こちらこそ名乗らず申し訳ありませんでした」

「いやいや、お気になさらず。それではこれで。失礼します」

「気を付けてお帰りください」


 今度こそ俺は出入り口へと向かう。

 自動ドアが開いた瞬間、ムワッと外の熱気に包まれて不快感に襲われるが、覚悟を決めて外へ出ると、出来るだけ日陰を歩きながら駅へと向かった。


 とりあえず、登録はなんとか出来たな。

 これで明日からダンジョンへ通えるようになった訳やけど、楽しみなような、不安なような……。

 それにしても、望月さんか。

 親切でええ人やったから名前忘れんようにせんと。またなんか手続きする時、お世話になるかもしらんしな。


 説明はほとんど頭に入らなかったが、望月さんの名前だけはバッチリと頭に叩き込んで帰る事となった。


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