第一章 トキオ、探索者になる

第1話 大災害


 西暦2045年。

 この年は、時代の明確な転換点として、世界中で広く認識されている。

 何故なら、文明レベルを変えてしまう程の“大災害”がこの年に起こったからである。


 あの国の大統領選挙が始まる、あそこの国同士がまだ終戦しない、株価が急に暴落して隣国の経済が危機に陥っている……。

 そんな世界情勢なんて知るかと言うように、突如は現れた。


 “ダンジョン”


 後にそう呼ばれるようになったその特異な存在は、世界中の公園や広場と言われる場所に突如現れて、その場にいた多くの人間を呑み込んだ。

 この大災害によって行方不明になった被害者は、世界全体で一億人を超える。

 さらに、後の世に与えた影響を鑑みると、実際の被害はこのレベルでは収まらない。


 世界中の国々は、すぐさま事態の解明と究明を急いだ。

 派遣された軍や政府機関が現場で発見した物は、見た事もない謎の建築物や、昨日までとは違った特殊な地形など、様々だった。

 共通して言えるのは、昨日まであった風景からの異様な変化。不自然さ。


 そして、派遣された場所で謎の建築物を発見した某国の軍は、いざなわれるかのように中へ入った。入ってしまった。


 結果、無事に帰って来れたのは、五十人中たったの二人だけ。


 その二人からもたらされた建築物内の情報は、軍上層部、ひいてはその国の政府までをも震撼させた。


『中へ入ると、そこは別世界だった』


 中に入り奥へ進んだ軍人達は、そこで見た事も無いを見つけた。


 そして、行われたのは凄惨な虐殺。


 生き帰った者の報告によれば、襲ってきたのは異様な化け物。銃火器はほとんど効かず、奴らは何の躊躇も無く仲間を殺し続けた……と。


 その報告を受けた政府機関は、悩んだ末に世界へその事実を発表する事に決めた。

 すると、世界中から次々と同じ様な発表がなされ、仕舞いには、無謀にも突撃した民間人達からもSNSを通して、様々な情報が行き交った。


 この時、世界はようやく気付いたのである。

 自分達が世界規模の未曾有の大災害に見舞われているという事に——




     ◇




 時代の転換点と呼ばれた年から二十三年が過ぎた、西暦2068年。

 日本の大阪にある吹田という街で、ある男が夏休みの計画を練っていた。


「アカン、どうしよ。来年の卒業までに探索者として実績作るなら、この夏休み中に探索者登録してなんとかするしかないんやけど……ほんまにやれんのか?俺」


 やたらとデカい身体で、馬鹿みたいな自問自答をしているこの男の名前は——


 渋谷しぶたに トキオ 十八歳

 ピチピチの高校三年生である。


 生まれも育ちも大阪でありながら、まるで東京を背負っているかのようなフザけたこの名前は、両親が真剣に『時を彩る男になって欲しい』という気持ちを込めて名付けられた。


 結果的に、“渋谷”という苗字と引っ付いて珍妙な名前になってしまっている事は否めないが、本人は至って素晴らしい名だと自分に言い聞かせている。

 ちなみに、苗字の読みは“シブタニ”だ。


「結果がどうなるにしても、もうやる事は決まってるんやから、あとは動くだけや。 探索者登録の手続きに使う書類はネットで取り寄せたし、届いたら必要事項書いて提出するだけ。 大丈夫や……なんも心配する事は無い。だから大丈夫……」


 人生における大きな一歩を踏み出す不安に押し潰されそうになりながらも、なんとか前を向こうと踏ん張るトキオだった。





 一週間後。

 ついに高校最後の夏休みを迎えたトキオは、びっしりと書き込まれた書類を持って、探索者協会大阪支部がある難波へと足を運ぶ。


 戦いに生きる道を見出したトキオは、強い意志と目標を武器に、探索者人生の入り口に立つ——

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