冒険者のその日暮らし
@24no
第0話
認証機にギルドパスをかざし、出口ゲートを通る。退屈そうに立っている守衛に会釈をしながら、足早にその場を離れる。外に出て振り返ると、天にも届きそうな超高層の塔がそびえ立っている。
俺が先ほどまで探索していたダンジョンである。
【ベバルの塔】
人類が文明を築く遙か昔から、この場所に鎮座し、人々を見守り続ける神々の遺構物。
この塔の中には、金銀財宝から食物、武具や知識など、この世の森羅万象全てのものがここに存在するといわれている。人類はそれを持ち帰り、糧にすることで生き延び、文明を発展させてきた。
神々が人間に与えた慈悲とされる。
ただ神は慈悲と共に試練も授けた。
塔の中には人類の《エネミー》という敵性存在が出現する。
襲い来るエネミーを打ち倒すと、エネミー自体は跡形もなく消滅するのだが、その場に何かしらのものが残されている。この残留品のことををドロップアイテムという。
このドロップアイテムこそが、神々の慈悲とされるものであり、エネミーという試練を乗り越えた者への報酬である。
そのドロップアイテムの内容は多岐にわたる。
エネルギー資源である魔石から野菜や食肉、作物の種や苗、素材となる鉱石や木材、魔導書や技術書、果てはかつて失われた伝説の武具までと、様々。
まさにこの世の全てのもの、といっていい。
こうした塔で手に入るドロップアイテムは、人類の文明を発達させ、遙か昔からずっと人々の生活を支えてきた。
そのドロップアイテムを持ち帰る職業。
危険を冒して塔に挑み、鍛え抜かれた技と力で試練を打ち破り、資源を持ち帰り富をもたらす、そんな人々のことを――――冒険者という。
古来より数多の冒険者が塔に挑み、塔の中でその命を散らしていった。
その屍をかき分けるようにして稀少なドロップアイテムを持ち帰る事に成功し、英雄として脚光を浴びる、巨万の富を得るほんの一握りの成功者。
その目映いばかりの輝きに目がくらみ、また多くの犠牲者をダンジョンは飲み込んでいく。
冒険者は今も昔も民衆にとってのヒーローでり、少年少女の憧れの職業である。
それとともに、親にとってはできれば子どもになって欲しくはない職業でもある。
そんな冒険者という職業に就いたひとりの男。
それが俺、ハトマである。家名はもうない。
いいとこの子に生まれ、恵まれた環境で育ったが、子どもの頃に抱いた夢を捨てきれずに、家を出て危険な冒険者業界に足を突っ込んだアホな男である。
こんな風に格好つけて言ってはいるが、実のところ実家との関係は円満であり、普通に頑張ってこいと送り出されたりしている。辛くなったら戻って来いよ、とも。
とんだぬるま湯である。
でも夢にかける気持ちは本物だ。
だから俺は、今日も命をかけて塔に挑む。
そうして得た報酬で、その日その日を生きぬいていく。
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