第34話 櫻井慎吾の焦り

「俺は、その、君が好きだ。だから俺と付き合って欲しい」


 夏休み前。

 櫻井慎吾は、学級委員長 前原祐美に告った。あわよくば、前原と過ごすバラ色の夏休み、そんな想いもあった。


「気持ちは嬉しい。でも、交際する程櫻井君の事を知ってる訳じゃない。だから、櫻井君を知る期間が欲しい。先ずは友達から。それじゃダメかな?」


 学級委員長と副委員長。色々コンビ組んで学校行事をこなしてきた。だから、自分的には分かり合えてると思った事もあったんだ。


 今考えると、色んな対応、俺は全く特別じゃない。ってか、クラス男子全員に同じ対応してる…、そう思えた。

 見つめ続ければ、見えてくる。


 彼女が唯一、心許してると思える男子がいる。

 気安く用事を頼む振ってる。そんな存在。

 

 最初は、その男子って言うより、そいつの彼女を通じての事だと思っていた。

 前原さんの無二の親友~金井文香さん。

 そして、金井さんの彼氏~亀沢孝矢。


 ほぼモブと呼べる存在。

 ガタいはいい。がクラスでそれ程存在感がない。バイトをしているせいか、付き合いもほぼ無く、また行事参加も最低限。成績も可もなく不可もなく。食事もグループには入らず1人ぼっち飯。脚光浴び始めたのは、彼女の存在がわかってから。


 彼女~金井文香さん。

 クラスのムードメーカーとも言える陽キャ女子。

 祖先に英国イギリス人がいるから。栗色の髪と翠碧眼の持ち主で、クラスでも1,2位を争う程の巨乳。以前はリボンタイを緩め、第2ボタンまで開けていたので、その白く眩い谷間を見せ付けていたが、今は彼氏持ち主張の男子用ネクタイをして、ボタンも第1だけを開けてる。


 何でも、雨宿りから始まった恋らしい。

 今では、クラス公認の恋人同士バカップル


 彼等より、真っ当な始まりになると思ったんだ。



「友達から」

 それを実践?すべく、彼女の家がラーメン屋だと聞いたので、週末食べに行く事にした。


「ここかぁ」

 看板にある「麺や マエハラ」の文字。

 入ったら何て言おう。何て言われるかな。


 そう思ってた時、1台のバイクが駐輪スペースに停まった。青いタンク部分と後ろのカーゴトランクにある兎マーク。降りて来てヘルメットをとったのは、同じクラスの亀沢。


「こんにちは!"兎波運送ラビッツ・カーゴです。ご注文の品、お届けにあがりました‼︎」


 出て来たのは、エプロン姿も美しい前原さん。


 カーゴトランクからレジ袋を幾つも取り出す。

「もやし15袋、カットキャベツ6袋、刻みネギ2袋、メンマ2袋です」

「パパ!来たわよー‼︎」

「すまんなぁ、亀沢君。コイツが在庫を勘違いしてなぁ」

「ちょっと!」

「なんだ。やっぱのミスか」

「は?やっぱ、って何?私、ちゃんとしてるから」


 品物が入ったレジ袋を受け取りながら、亀沢が出したiPad画面にサインする前原さん。


「私じゃないからね。お兄ちゃんのミスなの!」

「OK。そういう事にするよ」

「ひど~い。それはそうと、お昼まだでしょう?食べてかない?」

「もう1件、午前中の荷があるんだ。それ届けたら食べにくるから」

「絶対だよ!待ってるから」

「それじゃね、


 ヘルメット被り、再びバイクに跨ると。


 ブォン、ブォン、ブン、ブォン!


 バイクは発進した。


 

 前原さんと、あんなに仲がいいのか?亀沢の彼女は金井さんじゃないのか?あんな表情の前原さん、見た事無いんだけど。


 一体、何がどうなってるんだ?


 

 クラスでは見ない、亀沢と前原の、とても親し気なく態度。俺には何がなんだか、よくわからなかった。


 まさか、亀沢のヤツ、二股かけてやがんのか?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る