第33話 あの日、土砂降りでなかったら…

 あの日…。

 7月7日、七夕の日フェスティバル オブ ザ スターウェーバー


 短冊に願い事を書いて、星に托す星祭りの夜。

 子供達は、織姫と彦星が出会えるのか、空を見上げて祈る夜。


 でも、週末金曜日の夜。この年の七夕は全国的に雨で、所によっては線状降水帯が発生し、河川の氾濫や土砂崩れ等彼方此方で自然災害が起こりつつあったの。

 ここまで酷い振りじゃ、お客様は見込めない。

 パパも寸胴鍋の火を落として、「今日は、もう店じまいだな」って洗い物を始めた。


 外を走る車の数さえ少なくなってきて。

 ママも暖簾を中に入れて、閉店の表示を出す。


「本当に、酷い雨だわ」


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 あの日が晴れてたら。

 前原祐美は、そう思ってしまう。


 旧暦ならともかく、7月頭ってまだ梅雨。過去35年間でも晴れてたのは5日しか無いとか。曇り14日雨16日だって。


 その事実だと望み薄?いや、曇りでもいい訳で。


 雨じゃなければ…。

 文香も帰れない事は無く、コンビニで雨宿りしてなくて。

 亀沢君もバイトの帰り、ウチで食事とってるかもしれなくて。

 つまりは、亀沢君と文香が劇的に出会う事もなくて、私と何気ない会話を楽しんでいたかもしれない訳で。


 亀沢君が、兎波運送ラビッツ・カーゴでバイトし始めたのは中2の冬。秋にご両親を事故で失い、色々一段落ついてから。補償金?賠償金だったか。かなりの額が加害者側から支払われ、生活は出来るであろう状況ではあったものの、一人暮らしだからという理由で、自転車配送部として働き始めた。

 それで、ウチにも配送に来て、帰りに暖をとるべく寄る様になってきた。


 第一印象は、無口?少し違うか。

 配送時と、仕事帰りの食事時では違ってて。


 配送時は元気一杯の好少年。ハキハキテキパキ。見てて気持ちいいくらい。

 でも、食事で来た時にはボソッと注文言ってそれだけ。ママが話し掛ければ応える、みたいな。


 これが素なんだ。

 少しずつ打ち解けて。


 受験期、同じ高校を受験する事がわかった。それまで以上に勉強に身が入り、合格発表がとても嬉しく、入学式で同じクラスと分かった時には、ホント、天にも昇れそうな気がしてた。


 翌日、初学活で。

 担任の戸畑先生から、学級委員長の指名を受けた。つまり、入試で私はクラス首席の成績だったらしい。あくまでも噂。暗黙の了解。

 元々、リーダーシップとる性格タチだ。学級運営も上手くやれてると思う。


 内心の、秘めたる想いを出す事は無く。


 後から思ったんだ。

 このクラス2組って、可愛い娘多くない?亀沢君って、どんな娘がタイプなんだろ。


 男子の評価が聞こえてくる。

 私は、かなり美少女らしい。5月には学年1って言われる様になったし、なんなら「ミス開南」って呼ぶ者まで居るんだとか。


 あんまり自覚ないんだけどなぁ。

 嫌味にならない程度に意識して。


 知り合って2年近く経った今、告っても良いかな?そう思ってた矢先だったんだ。


 だから、もし、あの日に雨が降らなければ。

 違う未来があったかもしれなくて…。


 あっという間に熟練夫婦バカップルの雰囲気になった2人文香と亀沢君。そして、聞こえてきたのは、通い妻処か半同棲状況となった2人の暮らし。

 通学手段が違う為か、一緒に登校してくる事はなく、だからこそ半同棲状態になってるなんて思いもしてなかった。

 でも、文香は週末だけでなく、週の半分くらいは泊まってる感じになってるみたいで。

 偶に聴く2人の仲惚気

 文香はゾッコンだし、亀沢君も文香一筋の様相が出てきた。


「アタシの事、タイプど真ん中って。それがマジ嬉しくて。もう、絶対尽くそうって決めたんだ」


 手弁当がバレた日。

 文香は、はにかみながら、そう告げた。


 そうか…。

 亀沢君は、胸の大きな娘が好みなんだ。


 決して小さくはないだろうが、それでも文香程のインパクトはない。アレに勝てるのは絵里エリーだけ?ほぼ同格?

 やはり外国人の血は大きいらしい。


 文香も、髪色と瞳の色が、純日本人と言えないから。


「隣の芝生は青く見える物ですよ、祐美」

 深月に言われて、ハッとする。


 殊更、2人の仲を壊すつもりは無いし、破局を願う事も無いけど。文香と別れたらワンチャンあるかな?


 そう思う私は、悪い娘なのかもね。

 

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