第5話 そして恋人へ…、展開早くね?

 朝起きたら、金井カナブンが朝メシ作ってた。夜の内に洗濯が終わった?制服自分の服に着替えてて、俺のエプロン着けてて。


 やべ、和む。

 何か、ホッとしてしまう。


 コッチ見て、微笑む金井カナブンに。


「おはよう、朝メシ?マジで?ありがとう」


 そう言う俺に。


「おはよう。何?アタシが朝食作るの意外?」

「俺の為に作る事が、ピンとこない」

「アタシ、結構尽くす系だよ?」

「まぁ、確かにそうだよね」


 制服の着崩しとか、ギャルなんだよね。

 それに、茶髪…栗色髪だし。


 でも、凄いネイルの爪だと思ってたら、着け爪だったみたいで、今は白い真っさらな爪で。

 料理もだけど、家事も普通にこなしてて。


「母子家庭だもん。一通り家事は出来るわよ」


 ギャルへの偏見、思い知らされて。


 彼氏、取っ替え引っ替えっては聞いてたけど。そう言えば二股は聞いた事ないな。


 俺がリビングに入ったら、水槽にいるカメが騒ぎ出す。ミドリガメとキバラガメ。もう10年飼ってる、今現在、俺の唯一の家族。


 エサをやりながら、つい思い出してしまう。


 中2の秋。

 交通事故で、俺は両親を失った。


 横断歩道上、赤信号で突っ込んで来た赤い外車。

 お袋に突き飛ばされた俺は、それでも右脚を轢かれて。お袋は全身打撲で、親父は跳ね飛ばされた後地面に落ちての頭部陥没。2人ともほぼ即死。


 交差点対向車、兎波運送ラビッツ・カーゴ軽トラのドライバー兎波のオバさんが、通報し救急車も呼んでくれた。彼女が逃げた赤い外車フェラーリのナンバーや特徴をしっかりと通報してくれたおかげで、犯人は直ぐに逮捕された。


 国会議員、政府与党の重鎮の孫だという犯人は、それらを考慮される事なく逮捕・収監された。

 父親たる議員秘書も、祖父たる国会議員も全く庇う事なく公表、謝罪し、任意保険に入ってなかった犯人の代わりに保険金並の賠償金を支払ってくれたんだ。


 なので、バイトはしてるけど、こういうそこそこ広い2LDKに一人暮らし出来てる。

 祖父母も親戚もいない俺を、「これも何かの縁ね」と兎波運送社長夫人兎波のオバさんが後見となり、バイトとして雇ってくれて現在に至る。


 そこの女性ドライバーとして、金井カナブン金井日和もいるんだ。「子供と同い年だから」って、結構可愛がってもらって。

 同じ中学オナチューだけど、元々隠キャぼっちの俺は、こんな事でもないとギャルとなんか接点は無くて。


 ってか、この頃金井カナブンはギャルじゃなかった。


 翌年、中3の夏だったか。

 金井カナブンの親父さんが病死した。


 病院嫌いで「気合いで治る」と昭和のオヤジだった金井カナブンの親父さんは、だからなのか、癌が見つかった時には、もう、手の施しようがなかったらしい。あっという間だった。


 父親っ娘だった金井カナブンは、親父の死を受け入れられず、母親日和さんが働き出した事もあって、ぼっちから家を飛び出し、友達…男の家を転々とし出して学校にも来なくなり、戻って来た時には、金髪に近い髪色のギャルになってた。


 バイク仲間~族といて、結構ヤバかったらしい。幸運にも、族のOBで何代目かの総長の庇護を受けたって聞いてる。その人、今、兎波運送ラビッツ・カーゴ二輪部バイク便主任で俺の上司春口さん。面倒見のいい、バイクの運転テクは勿論、修理の腕もピカイチの頼れる兄貴分。


 そんなこんなだからだよね。

 金井カナブンが俺に「今晩、泊めて」って。


 で、「誠意と感謝」。

 ちょいがっついてしまった感はあるけど。


「送ってくれるよねー。まぁ、駅まででいいけど」

「お巡りに遭わない事、祈ってくれ」


 免許とって1年は、2人乗りは出来ない。

 捕まったら違反キップ、反則金なんだよ。

 夕べはノーヘルもあったから、かなりヤバかったんだ。いつもならやんねーよ。マジで。絶対。


「ね、これで終わりって事、無いよね?」


 まぁ、只の友達ってラインは確かに超えたな。思いっきりオーバーランで。


「そこまで、無責任じゃないつもりだから」

「うん、じゃ、これから恋人って事で。ね、ユキヤ!」


 展開早くね?

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