第4話 こんなに惚れっぽかった?

 コトコト。


 冷蔵庫にあったのモノであり合わせ。

 ちょっとしたサラダに朝食定番ハムエッグ。

 

 チン!


 トースターから加熱終了のチャイムが響いて、熱々のトーストを取り出すと、バターを塗っていく。


 週末土曜日。

 学校は休みだけど、朝寝坊なんかしないアタシは、いつも通りに起きて朝食の準備をする。


 ピー!


 ケトルから沸騰した音が鳴って、インスタントだけどコーヒーを淹れて。


 2人分の朝食。

 ママの分じゃなくて、亀沢カメの分の朝食を作る事に、アタシのテンションは結構上がってる。


 アタシ、こんなにも惚れっぽかった?


 ベッドを共にしたんだから、確かに只の友達じゃ無いんだろうけど。


「おはよう、朝メシ?マジで?ありがとう」


 起きて来たカメがびっくりしてる。


「おはよう。何?アタシが朝食作るの意外?」

「俺の為に作る事が、ピンとこない」

「アタシ、結構尽くす系だよ?」

「まぁ、確かにそうだよね」


 ポチャン!チャポチャポ‼︎


 リビングの隅、水の跳ねる音。

 ちょい大きめの水槽が2つ、並んで水槽台にある。


 最初は熱帯魚?金魚?って思ってた。

 覗き込むと、オブジェと思ってたモノが動き出してコッチを見る?


「カメ?えー?カメがカメ飼ってるの?」


 朝食作ろうとキッチンに入ったら、ついリビングの水槽が目に付いて。1つの水槽に1匹ずつ、黒っぽい甲羅なカメがいた。

 10cm?いや、もっと大きいかな?


「俺を見ると『エサ寄越せ!』ってね」


 パチャ、ポチャン!


 カメの動きを追いながらカメが…、何かもうややこしいなぁ。

 水槽台の下からエサを取り出すと、上からパラパラとエサを撒き始める。


 あはは。凄いバクつき。


「何ての?」

「コッチがアカミミガメ。で、ソッチがキバラガメ」


 手足は緑だ。でも片方には耳のトコ?赤いラインがある。もう一方は黄色。


「キミミじゃないの?」

「腹、模様ないだろ。まっ黄色」


 エサ食べるのに、水面に浮いて上向きでパクパク。なる程。片方には黒い模様があるのに、もう片方には全くない。


「一般的には、どっちもミドリガメって言われるヤツだよ」

「は?あれ、500円玉位のやつでしょ?」

「飼い始めた10年前は、そうだったよ」

「10年?凄い!」


 確かに、カメって長生きってイメージ。でもミドリガメって、そんなに生きるの?保育園の頃とか、友達の男の子なんかも飼ってたけど、大概冬には死んだって聞いたりしてたけど。


 そういえば、この水槽、上にぐるぐるライトが付いてて。それにブクブクと濾過器から泡も出てる。


 カメって、プラケースにちょい水入れて、って感じでみんな飼ってた様な。


「俺も最初は、そんな感じ。せっかくだから本買って見たら、色々必要ってわかって」


 水槽台の下。もう色褪せて古ぼけた本がある。


 「ミドリガメの飼い方」


 手に取ると、うん、10年前の本だ。消費税が5%だもの。


「カメ達も食べてるし、カメも食べたら…」


 言ってて、ちょい自分でも吹き出してしまう。


 本物のカメと、ごっちゃになりそう。


「ねぇ。紛らわしいからユキヤって呼んでイイ?」

「いいけど、カナブン、メチャ肉食系だ」

「ちょっと?」


 夕べ、がっついたのはソッチだぞ。

 あんなに求められたら、とっても嬉しいけど。


「いただきます。うん、美味い」


 トーストなんて、誰が作っても味は一緒。

 でも、笑顔で食べてくカメを見て、アタシはマジ嬉しくて仕方がない。

 そして、朝食を共にする事も。


 ヤバ。ココに居たい。一緒に居たい。


 こんなにアタシ、惚れっぽかった?

 

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