第2話ー専属ライターと担当Vtuber

 一文惜しみの百知らず。

 昔の人は、うまいことを言ったものだと心底、思い知らされた。

 今、まさに目先の報酬の額とクレジットに目が眩み、平和な日常を喪失したのだから。

 僕の通っている高尾学園では基本的にバイトは禁止されている。

 一応、学校側に申請を通せば、バイトをすることができる仕組みにはなっているが、特別な理由が無い限りは、その申請が通ることはまずない。

 おまけに、僕や志乃さんのように進学コースに在籍している生徒であればなおさらだ。

 しかし、いくら高校生とはいえど経済力は必須の能力であることは否めない。

 そのため、ひっそりとお金を稼いでる高校生も少なくない。

 それが、停学や退学のような重い罰を課せられる重大違反だとしても、それは仕方のないこと。

 そして、分不相応な成人済みのペンネームを持ち、フリーのシナリオライターをしている僕もその一人だ。

 その結果、学校では数多のラノベの栄養を摂取し、家では余すことなくネットの世界へと放出していく。

 これ以上に幸せなルーティンを、僕は知らない。

 そして、そこに利益を求めてしまうのは、人の本能だと思う。

 しかし、どうやら人という生き物には、利益追求の本能に盲目になるという“デバフ”がデフォルトで備わっているらしい。

 しかし、神様—。

 僕は、本当に悪いことはしてないと思うんです。

 たしかに、高校生になってからというもの、僕が書く文字には価値がつきました。

 僕が一万文字書けば、それだけで五万円貰えます。

 最初は、何かの詐欺かと流石に思いましたよ。

 最近、よくニュースで流れてくる闇バイトなのではないかと。

 しかし、そんな疑いの心は十分も経たずして、消えました。

 さらに言えば、その初仕事で得た報酬金はデジタルサイトにて、二次創作の同人誌と推しへのスーパーチャットという納税へと消化されました。

 たしかに初報酬の時、母親から『無駄遣いはダメ!』と言われたような気もします。

 そして、約十分程度で残高をゼロにした僕は、忠告を無下にしたのかもしれません。

 おまけに、ありがたいことに二件目の仕事もいただき、その仕事先は、Ⅴ業界随一の箱である『にじライブ』を運営する株式会社サムプラからのオファーだった。

 僕はたしかに、この仕事を受けた時、これが人生の頂点なんだろうなと悟りました。

 しかし、頂点の直後に人生の底辺って。—神様、僕はいつタワーオブテラーに乗車したのでしょうか。

 おまけに、この状況がまだ底辺に来てないと思わせてくるその、精神は流石にサディストが過ぎませんか。

 

 しかし、おそらく神様も無差別に、人をおもちゃにする程暇ではないはず。

 

 思い当たるあの日。

 本社に招待された時、僕は既にタワーオブテラーに乗車していたのかもしれない。

 この仕事を受けて、ゴールデンウィークになるとすぐに、『サムプラ』本社に招待された。

 元々、九州の片田舎で育った僕にとって、東京ーそれも秋葉原に行けるなんて、まさに垂涎モノだった。

 さらに、母親は仕事で来られないため、一人で東京に行くことになったうえに、母親から何かあった時のために、六万円持たせてくれた。

 秋葉原で何ができるか、いや何をしようか。

 自分のオタク心の思いはどこまでも膨らんでいき、気が付けば、成層圏まで浮かび上がるほどの巨大な気球へと変貌を遂げていた。

 まあ、平たく言えば調子に乗りまくっているということなのだが、九州育ちの一オタク男子高校生が、大手企業からの招待で秋葉原に行くことが決まって、有頂天にならないわけがない。

 これは最早、本能というものな上に、理性の利かないところにあるため、一種のバグのようなもの。

 そんなルンルンな気持ちで気が付けば、本社に到着。

 目の前にそびえる全面ガラス張りで、近代的なオフィスビル。

 昼間の強い日差しが、ビルのファサードをキラキラと眩しく輝かせていた。

 ビルに入っていくシャキッとしたスーツを着ている大人の人たちが、かっこよく見えてしまう。

 これがいわゆる、エリートの風格と言われるものなのだろうか。

 少なくとも、地元の学校や塾にいるよれよれで汗まみれになってしまっている先生たちとは、まるで違う。

 そして、正面エントランスは広く開かれており、中央には女性が立っており、その奥には、高級ホテルのような風貌を持つエレベーターが聳え立つ。

 対して、僕は母上がこれが最大限の正装であろうと予想し、近くのファッションセンターで準備したコーディネート。

 今にして思えば、駅前のデパートやアミュプラザで揃えれば、もう少しマシだったのではないだろうかと思う。

 しかし、当時の僕のIQはおそらく、三十くらいに下がっていたと思う。

 考えていたことなんて一つもない。ただ、受付の女性に話しかけられ、硬直し、言われるがまま、ミーティングルームに案内されたことしか覚えてないのだから。

 道中のこと等、まるで覚えておらず、最後に帰る際、「あの、出口はどこでしたっけ」と目の前の出口を前にして、抜かしてしまう始末。

 しかし、ミーティングルームにマネージャーやプロデューサーが入ってくると、一気に仕事モードに入ったのか、スムーズに商談を進めていくことができたという自負がある。

 なぜなら、あの『にじライブ』所属のⅤtuberの専属ライターという地位を勝ち取ることができたのだから。

 しかし、その選択がすべての間違いだったのかもしれない……

「今日は、ありがとうございました。そうだ! たつさん。今日あなたの担当するⅤの子を呼んでいるので、ぜひ会っていただけないでしょうか」

「まじですか? ぜひ、お会いしたいです!」

「わかりました! では、呼んできますね」


 ーガチャッ。

 

「はじめまして! 『にじライブ』所属の兎宮みなをやらせていただいております。志乃新稲です……あっ」

 ーなるほど。

 神様、やはり僕は……学校の校則を破ったことがダメだったのでしょうか。

 そういうことなのでしょうか。

 まさか、ここで同じクラスメイトでしかも……

 しかし、ここで叫んでしまっては、お互いのためにもならないし、何よりもこの大仕事が無に帰してしまう。

 それに、当時のなけなしのIQで算出した答えは、今でも泣けてしまうほどに馬鹿すぎていたと思う。


「あっ……こちらこそ、初めまして……えっと、どこかでお会いしたことがある気が……」

「えぇっと……あ! やっぱり、たつ君?! えぇ! どうしてここに??」

 

 そう。自分で、ばらしていく猪突猛進のストロングスタイル。

 このスタイルに最大の欠点があることも知らずに。


「そうかあ。君ら同郷だもんね! そうかそうか。でも、どういう繋がりなんだい?」

「あ……」

 そう。僕は、成人したライターとしてこの会社に来ている。

 そして、兎宮みなはⅤ業界でもかなりの古参税としても有名。

 つまり、僕が猪突猛進した結果は、志乃さんを巻き込み、マグマの中に飛び込む一番最悪な方法だった。

 しかし、志乃さんは違った。

「そうなんですよぉ。実は家が近所で、昔はよく一緒に遊んでくれてたんです」

「そうかそうか、そういう繋がりなんだね。確か、みなちゃんのほうが歳が上なんだっけ」

「そうなんですよぉ。だから、弟みたいに可愛くって!」

「ぶほっ!!」

 志乃さんは、突然僕を抱きしめ、本当に久しぶりに会った幼馴染の弟のように扱い、ハグまでしてきた。

 そして、幸いなのか、辛い現実なのか、志乃さんよりも身長が低かったため、幼馴染の弟設定がよく効いていた。

 しかし……

 突然、同じクラスの女子に抱きしめられ、目の前に胸が急せっ……あ、いや、うん。

 とにかく、志乃さんの機転の利いた対応と演技が功を奏して、トラブルだらけの顔合わせは幕を閉じた。

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