共通ルート-第一部

序章


 そのメールは、突然届いた。


 ――蒼月ルイ様。


 貴殿は厳正なる審査の結果、我が校への入学が認められました。

 入校証と学生証を本人受け取りにてお送りしますので、必ずお受け取りください。

 

 情報処理高等教育機関コードリア校。


「情報処理、高等教育機関、コードリア校――通称、バグ学園?」

 なんだそりゃ。何かのスパムだろうか。

 最初はそんな感想だった。

 添付されていたリンクをウイルス検査にかけてみたけれど、特に引っかかるものはない。

 恐る恐るリンク先のURLをクリックする。

 ――当たり前だけれど、ホームページに飛んだ。

 ホーム画面には上空から撮影したのだろうか。どこかの島が写っていて、その中央に真新しい校舎が建っている。

 一見すると、普通の学校のようにも見える。

 しかし、学校案内には奇妙なことが書かれていた。

「SE養成学科、文法保全科、バグ……学科?」

 バグとは、プログラムを停止させたりクラッシュしたりする、あのバグだろうか……?

「えっと、『バグ学科では、バグの特性を持つ学生が多数在籍。ニンゲンの心理と論理の乱れを研究しています』って、バグの特性ってなんだよ……意味わかんねー」

 とは思いつつも、脳裏には一人だけ浮かんだ。

「っ、いやいや、あんな奴もう知るかってんだ! どうせ今頃、大好きな設計とか整理とか理論とか組み立ててるに決まってる。 なぁにが『お前のロジックは綺麗だけど間違ってる』だ。あんな裏切者、こっちから願い下げだっつうの!」

 今思い出しても腹立たしい。

 あんな奴が好きだったなんて、自分でもどうかしてると思う。

 けど――。

「バグか……」

 小さな頃から、俺は身体が弱くて、あまり外に出ることは無かった。

 当然、友達なんて出来るはずもなくて、唯一楽しみだったのは、親が与えてくれたパソコンでゲームをすることだった。

 特にオンラインゲームは好きだった。

 画面の上でだけ成立する友人関係は、苦手な人間関係も程よい距離でできたし、プレイスタイルが合えばそれで十分だった。

 遊んでいるうちに、俺はプレイする側じゃなくて、作る側に興味を持った。

 こんなゲームが出来たら楽しそう。こんなシステムがあったら面白そう。

 空想はやがて熱意へと変わった。

 小学校高学年で独自にプログラミングを学び、中学では大会で優勝したこともある。

 将来はSEじゃなくても、作る側の仕事がしたいと漠然と思っていた。

 俺の所属は、“SE養成学科”。プログラム制御と改善を主に学習するらしい。

 プログラミングするうえでバグはつきものだ。

 完璧な処理なんて存在しない。

 それでも――完璧を求めてしまう。

「……行ってみるか」

 バグ学科が何かはわからない。けれど、ここでならもう一度やり直せる。

 そんな気がした。

 

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