第2話  想像

なぜ缶より瓶の方が人気かは言うまでもない。ただ鑑賞できるかできないかの違いだけだ。あいつらは無限にその中で生活することになる。家具はきちんと中に用意されている。ソファーにテレビそれにおしゃれなフロアライト。俺たちの縮尺に直してみれば6畳くらいのスペースがあるだろう。


「こいつは瓶が良かったな」

「ねー」

ハシゴの上からカミルは返答した。

「じゃあ上見にいきますか」

「そうだね。誰も死んでないといいんだけど」


そうして俺たちはまた螺旋階段を軽快な足取りで登った。

3階にはベッドが無数に並べられていて、大体5歳から18歳の子供が夢を見ている。大人はいない。だって想像力に欠けているから。


「あー1人死んでるな」

「そうなんだ」

6歳のマルンが死んでいた。脈を確認するまでもない。夢の中であいつらにやられると絶対に目がくり抜かれるんだ。それで真っ白なシーツが頭から肩にかけて血で黒く染まる。


「えーじゃあ私たちまた行かないといけないの?」

「そういうことになるな」

俺たちは自分たちのベッドに向かった。俺とカミルは入居日が一緒でベッドが隣合わせになっている。

「よしじゃあ1分後に夢の中で」

「わかった」


俺たちは入居時に配られる真鍮の懐中時計で1分を図り始めた。こういう時どうやって夢を見るかって?それは哲学的な発想をするんだ。時計に関する。

俺は今回は秒針の先と蟻、この半径4cmの時計一周を競争したらどちらが早いかを想像した。当然真っ直ぐ進めば蟻が勝つに決まってる。だが現実はそう甘くはないんだ。

俺が1分測り始めると、最初はアリが真っ直ぐ進み始めて秒針に勝っている。だが、途中で集中が切れて、懐中時計の中心に歩き始める。そうすると最初は負けていた秒針がどんどん蟻を追い詰める。もちろん蟻はそんなこと気づかない。そうして30秒を過ぎたあたりで秒針と31分を指した分針にアリは押し潰されていくんだ。


グチュグチュッとアリの内容物が飛び出る。でも無慈悲に秒針は進んだ。自分が今生物を殺したことに何の感情も湧かないんだ。

そうして秒針は50秒に差し掛かったところで俺の意識もどんどん向こう側に移っていく。


(今回はなんだ?)

そうして俺は夢の中についた。今回は迷路型か。まずカミルを探さないとだな。

「カーミルー」

薄暗いコンクリートの壁の中で叫んだ。があいつからは返答が返ってこない。そうなると俺はこの迷路のゴールを目指すしかない。

俺は迷路の中に入って右側の壁に手をついた。こうして右側の壁をずっと伝っていけばいずれゴールの辿り着くから。そうやって俺は冷たいコンクリートの壁を触りながら進んだ。


迷路型はかなり厄介だ。どこから敵がやってくるかわからないし、もし途中でどちらかが目を覚ましても会わない限りわからない。


俺はポッケから赤マルを出して火をつけて吸った。俺は未成年だけどここは夢の中。


俺は壁をつたって10分くらいだろうか、十字路についた。すると俺から見て右側の通路に奴がいた。しかもガキだ。青いtシャツに黄色のステテコを履いているガキだ。


夢の中だとどんなにガタイがデカくて強靭な肉体を持った大人よりも、想像力を持ったガキの方が強いんだ。


俺はガキがいるということを一刻も早くカミルに伝えなければならなかった。出現する確率は極めて低い。その分、俺たちの死亡率も高いからだ。

俺は一目散に、ガキとは反対方向の左側の通路に全速力で走って

「ガキが!ガキが出たぞおおおおお!」

と大声で何回も叫んだ。だがカミルからの返事はない。


俺は焦っている。このままあのガキと戦うことになったら俺は死ぬのだから。

「おおおおい返事しろ!」

俺は自分の進んだ後がわかるように、走りながら想像で作った短刀で自分の人差し指、中指、薬指の指先を切り落として、人差し指の第一関節に合わせて長さを揃えた。想像で作るのは全然簡単じゃないんだ。だって頭の中で大雑把な短刀の形状から、持ち手の布の繊維まで全て想像しないといけない。時間があるときは立派な剣とか銃を作るが、今はそんな時間はない。


「いいってえええええ!」

夢の中とはいえ痛みはある。


そうして俺は切り揃えた血がドバドバ出ている指の先を右側の壁に押し付けてまた全速力で走った。この際方向は関係ない。ただカミルに俺が進んだ方向を知らせたいだけなんだ。そうやって俺は走り続けた。


しばらく走ったところで俺は貧血で倒れそうになって壁に寄りかかって座った。こうなってしまうとただ俺はカミルの帰りを待つだけだ。早く来い早く。


俺が走った綺麗に3本線が残されていた。


すると軽い足音がこっちに向かってきているのが聞こえた。まだガキかカミルかはわからない。俺は急いで担当を俺の服の袖を千切って短刀を手にくくりつけた。

こうするしかない。だって指を3本失ったんだから。


そうしていると誰かが角を曲がってこっちに来る。それはカミルであった。あの黄色い犬のTシャツは間違いない、絶対にカミルだ。

「赤木!」

カミルは息を切らしてやってきた。


「ほら早く止血して」

そう言われて俺はポケットからライターを取り出して自分の指先を焼いた。香ばしい匂いが漂ってきて小腹を満たしたくなった。


「ガキがいたんだ」

「何歳くらい?」

「100cm無いくらいだったからおそらく5歳くらいだ」

「そっか」

5歳は一番想像力のある時代だからマズいんだ。


「じゃあ今どこにいるかわかる?」

「ああおそらくそこまで移動してないと思う」

「じゃあ早く戻って戦わないと」

「そうだな。でも先に武器を作ってくれ」

「わかった」


カミルの想像力はズバ抜けている。俺が一本クオリティの高い武器を作る間にこいつは5本同じクオリティで作ることができる。

「じゃあ作るよ」

そうやってカミルはあっという間に2本の立派なボルトを作った。無から何かが生成されていく過程は何回見ても面白い。


そうして俺たちはをボルトを持って、俺の場合はくくりつけて、さっき俺がガキと会った場所に戻ったが、ガキの姿はない。


「あいつはいる?」

「わからない」

「でもなるべくここから動かない方がいいね」

「ああ」

そう俺が言った後、俺たちは背中を合わせてぐるぐるあたりを見渡していた。

「ところでカミル」

「何?」

「もうこれを機に芝居はやめないか?」

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