夢の中から
坂の下はカカシ
第1話 カミル
甘原カミルと現実にずっといなければいけないというわけではない。
ただ24時間365日。レム睡眠の状態を保つのがただ難しいだけ。
深い眠りの方が一般的には良いとされているが、本当は浅ければ浅いほどいいんだ。だってそうしたら夢が見れるんだから。だからと言って、あまり自分の居心地の悪いところで寝るべきではない。
そうすると何日かに一回は、疲労が俺を殺してただ8時間、死んでるだけの時間を過ごすことになるのだから。
「君は何で昨日やっとあいつを倒すところで目が覚めたんだ」
カミルが俺を隣の席から怒鳴ったきた。授業中だというのに一切の躊躇を見せないカミルにみんなの視線が集まった。こいつはみんなと違い、制服じゃなくグレーの中に黄色い犬の絵柄のあるTシャツを着て、青いジーンズ、それにクロムハーツのゴツいリングを全ての指にはめていた。
だが関係ない。夢なんだから。
「お前こそ今日1限を遅刻したじゃないか。あの後そのままあいつと対峙していたのか」
俺は周りの視線を気にせずにカミルに返答した。
今度は周りからの視線は集まらない。それどころか今まで寝ていたやつも飛び起きて俺たち二人以外の38人は一斉に黒板を見て授業に集中し始めた。
俺たちに興味はない。夢なんだから。
「そうよ。それでもあいつを現実に引っ張り出すことには苦労したわ。ほらこれ見てよ」
そこには痣があった。しっかりと手の甲に掴まれた跡があった。
掴まれた跡はつく。だってこれは現実だから。
「今そいつはどこにいるんだ。まさか俺の下とかじゃないだろうな」
「正解!」
案の定。俺の下であった。昨日は二人だけの世界だったからな。
「じゃあ学校終わり、いつもの缶の中に入れよう」
「でもそれじゃあ誰もわからないじゃないか。瓶の中は?」
瓶は今切らしているんだ。今回のは大物だったけど俺は他の誰かに自慢したいってわけじゃないんだ。
「瓶は今日帰りで買ってくる。それまでは俺の下に入れといてもいいぞ」
「下に入れといていいんだったら、缶で我慢してあげる」
そうして俺たちは学校終わり、教室の自殺防止で鉄格子がついている窓を二人で捻じ曲げた。捻じ曲げると言っても力は使っていない。二人で思うだけでツイストパンみたいに曲がるんだ。
もう言う必要はないな。これは夢なのだから。
俺たち二人は四階の窓から二人で窮屈そうに外へと出た。ベランダはないから普通は落ちいくのだろう。でも空中に道があるんだ。他のやつはどうせ見えっこない。
「今、赤木の下にあいつがいるんだよね」
「ああだから俺は今、気張って落ちないようにしてるんだ」
そうして俺たちが共同で住んでいる、敷地面積300平米の外装が真っ白なサクリカの前に俺たちは降りた。
秘密基地みたいに隠してはいない。住宅街の中にあった方がむしろ都合がいいんだ。だってみんなが見てくれるのだから。
窓はない。だって光が差し込んできたりなんかしたら俺たちの夢を邪魔するかもしれないだろう。
中は薄暗い。それに全ての壁、天井、床が真っ黒い。そりゃ光を吸収する方がいいだろ。
中央には白い風船でできた螺旋階段がある。上の階へと続きそれが3階まで続く。
1階はもちろん寝る場所ではない。作戦会議をする場所だ。だって上の階でもし誰かが暴れたりとかしたら俺たちは床の響く音で起きてしまうだろ?
「じゃあ缶に入れにいくか」
俺は自分の下にいる大物を自分から引っ張り出した。こいつらは俺たち“理解者”の影の中にしか入れない。ここの部屋は全部影で覆われていて、俺たちのテリトリーだからこいつも自由に動くことができる。
「やっぱでかいね~」
カミルが昨日頑張って一人で捕まえてくれたんだ。この体長二メートル以上ある黒いスーツで黒いネクタイをしたやつを。
こいつらには顔面の共通点は、目がない。夢をみるのに必要ないだろ。でもそれ以外のパーツはあるって言う奇妙な顔をしている。服装は全員全然違うんだ。ピエロみたいな格好のやつもいれば、普段街で見かける鼻水垂らしたガキみたいなやつもいる。
「今回は結構頑張ったんだけど。次は私たち休めるの?」
「休めるかは3階に行かないとわからないだろう。まあ死んでる奴がいなかったら俺たちは休めるぞ」
「やった。じゃ早く2階に缶を並べに行こうよ」
どうやったらこの二メートルもあるやつをこの直径10cmくらいしかない缶に入れるかだって?それは簡単。
俺がこいつをぶん殴り続けてこいつの体を小さくして、缶の中に入れるだけでいいんだ。
「おらっ。どうだ!」
俺はやっとの思いでこいつを縮ませて、缶の中に入れた。
そうして俺たちは暗闇でもよく見える、白の螺旋階段を伝って、2階へとついた。
もう俺はこの光景には慣れたが、棚に並べられた無数の缶と瓶が日付ごとにきちんと並べられているんだ。
缶や瓶の棚には20cm間隔で日付が鉛製の板に印字されていて、きちんとボルトが四隅に打ち込まれている。
「今日って何日だっけ?」
「8月7日」
そう俺が言うと、カミルは缶の上に白いペンで缶の上に日付を書いてハシゴを使って数えるのも嫌になるくらい高いところまで登っていき、今日の日付が書かれているところに置いた。
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