ー2章ー 4話 「イモと勇気とネックレス」

ホノエ村の入り口に、土煙を巻き上げてウルフ車が到着した。


【リュウジ】「おい、無事か!? ……って、ゴブリンじゃねーか!」


リュウジが叫ぶと同時に、視線の先には村の中で暴れていた十数体のゴブリンたちがいた。

彼らは家畜小屋を荒らし、畑を踏み荒らしていたが、リュウジたちの姿を見るなり、その動きを止めた。


その目が自然と吸い寄せられたのは、リュウジの首元で揺れる、緑色の雫型の宝石──ドラゴンの加護を宿すネックレスだった。


【ゴブリンA】「ギ……ギギ……!」


【ゴブリンB】「あ、あの気配……やばい奴だ!!」


次の瞬間、ゴブリンたちは蜘蛛の子を散らすように四方八方へと逃げ出した。


【リュウジ】「……逃げた!? ……なんで?」


【タケト】「お前の加護の力、マジで効いてるんじゃね?」


【リュウジ】「え、俺まだ何もしてないんだけど……」


拍子抜けするほどの展開に、リュウジとタケトは顔を見合わせた。

だがその直後、村の建物や納屋の影から、ちらほらと人の姿が現れ始めた。


【村人A】「ま、魔物が……逃げた!?」


【村人B】「助かった……本当に、助かった……」


一人、また一人と村人たちが安堵の涙を流し、その場に座り込む。

その中で、納屋の影に身を潜めていた少女が、震える足で立ち上がろうとして転びそうになった。


【ナツキ】「……よかった……でも……足が……」


彼女のか細い声が風に溶けていく。


その姿にいち早く気づいたリュウジが駆け寄り、無言で手を差し出した。


【リュウジ】「大丈夫か? ケガはないか?」


【ナツキ】「……いえ、大丈夫……その……ありがとう、ございます……」


声は震えていたが、目には確かな感情が宿っていた。

リュウジはその手を軽く引き、彼女をゆっくりと立たせた。


【タケト】「……この村、かなり酷い状態だな。牛も鶏も……ボロボロだ」


【リュウジ】「ああ、これじゃ農業どころじゃない」


二人の視線の先には、空腹と疲弊で力なく伏す家畜たちと、荒れ果てた畑の光景。

リュウジは静かに、背後のウルフ車を指さした。


【リュウジ】「これ、積んできたイモと水だ。本当は苗と交換するつもりだったけど、今はそんなこと言ってられないよな。とにかく、まずは食べてくれ」


【村人C】「そ、そんな……いいのか!? ……ありがとう、ありがとう……!」


歓喜の声が広がり、村人たちは列を作ってイモと水を手に取っていく。

疲れきった顔に、少しだけ生気が戻っていた。


【リュウジ】「しかし、何で魔物に襲われたんだ?」


【村人A】「私らにも分かりません。ここ最近、夜な夜な村へ来ては作物を奪っていたのですが、今日みたいに昼間から堂々と、しかも家畜まで襲ってくるなんて初めてでした。」


【タケト】「今まではなかった、という事は何か理由があるんだろうが………。」


【リュウジ】「とにかく無事で良かった。被害は大きいけどな。そうだ、この村の村長さんはいるか?」


【村人B】「ホノエ村は移住してきた者が集まって村という形になっているだけなので、村長という存在はいないんです」


【リュウジ】「そうなのか。村長が居れば復興に向けて、こちらも何か出来る事がないか協議しやすかったんだけど……」


リュウジとタケトは、この事態を何とかできないかと話し込む。

その傍らに居たナツキにリュウジはふと、視線を移す。

それは復興とは全く関係のない事だったが、なぜか気になって思考がそちらに奪われる。


【リュウジ】(……なんか、この子……他の村人と雰囲気が違うような)


その違和感は、ほんの小さなものだった。

けれど、それがこの先の運命を大きく動かす鍵になるとは、まだ誰も知らなかった──。


物語は、また静かに動き出す。

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