ー1章ー 30話 「祝賀と温泉、そして……」


夜。

トリア村の中央に、大きな焚き火が焚かれていた。

川の完成とミズハ村の復興を祝う、合同の祝賀会が始まったのだ。


トリア村、ミズハ村、そして魔物たちまでもが一堂に会し、イモやキノコの煮込み、ウルフが持ち寄った獣肉、簡易な果実酒まで振る舞われる。


【村人A】「こっちのイモはカリッと揚げてるぞー!」


【ミズハ村の女将】「うちの漬物も出してるよ!あんたたち、たくさん食べてってね!」


【ウルフ】「ワン……じゃなくて、ぐるる。うむ、うまい」


なんでウルフが席に着いてイモ食べてんだよと思いつつ、誰も気にしてないので俺も気にしない。


【リュウジ】「……ふぅ、やっとひと段落って感じだな」


【タケト】「だな。こうして皆が笑ってるのを見ると……胸に来るものがあるよ」


【ユイナ】「ちょっと、あんた達!主役がシュワット飲まないでなにやってるのよ!!」


【リュウジ】「悪いユイナさん、今温泉行こうって話してたんだ。ほら、仕事終わりで汗だくだろ?美味いシュワットは風呂上がりにって言うじゃん?」


【ユイナ】「またそんな上手いこと言って!…まぁ、汗だくじゃ気持ち悪いでしょうから、早く行ってサッパリしてきなさいね。待ってるから」


【リュウジ】「ありがとう!キンキンのシュワット頼んだよ!」


俺とタケトはひと息つこうと、祝賀会を抜けて温泉へと向かった。


湯気が立ちのぼる静かな湯に肩を沈め、二人でぼんやりと空を見上げる。


【リュウジ】「俺、あっちの世界でバイトしながら起業を目指してたんだ。上手くいかなかったけど」


【タケト】「俺は建築のバイトしながら、プロの格闘家を目指してた……上手くいかなかったけどな」


【リュウジ・タケト】「一緒か……」


つい声が揃ってしまう。

そして、想いは叶わずこの世界にいる事に何とも言えない気持ちで思わず笑ってしまった。


【リュウジ】「なぁ、タケト。あっちの世界のこと、思い出したりするか?」


【タケト】「……まぁ、少しはな。でも、俺は今、ここで生きてる。ミズハ村で感じた命の重みとか、今日の笑顔とか……俺にとっては、こっちの方が現実だよ」


【リュウジ】「……そうだな。俺もそう思う」


どこかで間違って、迷い込んだ世界だった。

でも、ここには守りたい人がいる。

笑ってくれる仲間がいる。


【リュウジ】「……もし、また選べるとしても、俺はここに来るかもしれないな」


タケトは目を閉じ、ぽつりと呟いた。


【タケト】「俺もそうかもそうするかもしれない……向こうよりイモ美味いしな!」


【リュウジ】「お前、それでいいのか……?」


二人で笑った。

湯けむりの中、ぬくもりと笑いが静かに広がっていく。


こうして、俺たちの始まりの物語は幕を下ろす。


 だが、旅はまだ終わらない。

 軽いノリの女神が遣わせたこの世界……。



そして――



この時まだ、俺たちは気がついていなかった………


誰かがこの地を狙っている事に。


そして、抗えない大きな渦に巻き込まれていく事を。


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