② 電撃! ラットパトロール

 森の真ん中で、チェリーが目を回してびてる。


 の先に、犬程の動物が、毛を逆立ててかくしてる。


 ちなみに、犬ではない。


 丸い耳に、長い尾、更に出っ歯——ねずみ、だ。


 カピバラ、なのか?


 ズダがあいだに割って入る。もちろん、チェリーをかばためだ。


「……(かいな奴を引いちまったね)……」


 相手はただおおねずみではない。魔獣へんで妖怪化した、『ironrat』だ。強固な剛毛と、の色味から、う呼ばれる。


 大きさは確かに、犬程度だ。ねずみにしては、巨大だが、牛やら熊やら、程ではない。だがの脅威度は、相当だ。なら——


 ひゅっ、と風を切る音と共に、長いむちような物が目の前を横切る。


 の直後、ズダの体が真っ二つに!


 ——ではなく、つえ、だ。


 幻惑の魔法で、しゃくじょうを囮に偽装してた。


 当のズダは、の弟子を抱えて、猛ダッシュで逃走してる。


 ちなみにしゃくじょうは安物だが、オリハルコン製だ。


 オリハルコンは魔道具に適した素材だが、きょうじん性にいて特別ではない。物性は只の真鍮だ。れでも、金属だから硬い。


 れが綺麗に切断された。


 『ironrat』の必殺技、『鐡の尾』だ。


 更に、元の鼠の性質をままに活かした高速移動=『電光石火』。


 逃げきれない。

 人間の足、して老女が、手負いを担いで、では——。


 ズダの両足の靴底に、光輪が現れた。


 足が宙に浮く。

 からはスピードスケーターのように滑走を始める。


 オーラダッシュ——足から放出した体内エーテル=オーラ、を靴底に仕込んだオリハルコンで制御し推力に変える。『ほうき』で飛ぶのと原理は同じだが、地表の高速移動に特化した魔法だ。


 飛行計画の申請が不要で、消耗や負荷が少ないので、簡易高速移動手段として利用される。但し制御が複雑で、安易に試す者の事故が絶えない為、街中では交通規制の対象と成る。正規魔女でも講習の受講が義務付けられてる。無免許魔女は——云うまでも無い。


 ちなみに『ほうき』は飛行魔法具の総称で、夜空に飛ぶと『ほうきぼし』の様に光の尾を引いて見えるので、ように呼ばれる。


 種類はもろもろ有るが、いずれも全くほうきの形から程遠い。強いて言えば、法術しゃくじょうで代替する事が多く、其れにまたがさまが、私達の世界での認識に最も似て居る。


 だがつえは切断されてった。


 チェリーの物も有るが、木で作った初心者用ダミーなので、パワーが出ない。


 仮に空に逃げおおせたとして、ままけない。村に侵入されたら、多大な犠牲が出る。


 『ironrat』が迫って居る——追い付かれる!


 ズダがしゃくじょうで地を突く、と急制動でくるりと回転する。只の棒で、魔法力無し、ではように行かない。


 おおねずみは勢い余って、『獲物』を追い越してう。


 だがねずみは直ぐ向きを変え、全身を急激に震わせる。


 体毛が青白く光り、稲妻に覆われる。


 れも『ironrat』の必殺技だ。体毛で起こした静電気をオーラで誘導し、雰囲気エーテルを介して敵に流す。


 故に、『雷光thunderrat』とも呼ばれる。の電圧は、凡そ拾萬volt


 チェリーを倒したのは、の技だ。森での実技演習中に現れたモンスターに、覚えたての雷撃を放って、返り討ちに会った。


 ねずみは再び、ズダたちに向かって突進する。体当たりして、接触して、寄り多くの電力を流そうと云うのだ。の鼠は知能が高く、己の力を理解して居る。


 ……だが、


 ねずみの背中の一箇所、か雷光を放たない、何かで濡れたように見える場所が有り——から炎が吹き出した!


 炎が全身に及ぶ。

 ねずみえんに包まれた。


 苦しみの悲鳴を上げながち回る。


 だが、火は消えない。何かの魔法が施されてるのか。


 遂に鼠は地に伏し、暫くけいれんしていたが、やがて動かなくなった。


「今のも魔法なんですか……?」


 チェリーが目を覚ました——いや、しばらく前からか。


「見てたのかい……違うよ。れ違いさまに教材のアルコールをっ掛けてったのさ。後は奴自身の雷撃で着火、と云う寸法さ。苦労して雑草から作ったのに、してくれるさ……」


 因みに無許可の製酒行為はの世界でも違法だ。


「何だ『物理』かまんない」


は『物理』じゃなくて『化学』だろう。後、たら魔法頼りと云う頭も改めるんだね。の世は魔法が全てじゃない。寧ろ所詮、『物理』や『化学』の添え物さ。ところ、良く肝に命じて置くんだね」


 非『物理』の力なら、『政治力』もれだ。の力は条件次第で、魔法のれを遥かに上回る。但しの力が及ぶのは、人間に対してのみ、だが。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る