(魔)女性活躍(異)社会 ① 教導師プラムの場合——魔獣戦線

伽図也

① 野良魔女師匠と貧民娘

「ではチェリー、まえ魔女にりたいんだい?」


もちろんかねが欲しいからです。金持ちだったら、御師匠様みたいな得体の知れないさすらいの無免許魔女に教わらないっしょ」


 身も蓋も無い会話が、あばの中で交わされる。


 会話の主は、年端の行かぬ小娘と、黒い長衣robeの老女だ。何方どちらの衣装も粗末で年季が入ってる。


 隣の、矢張り粗末な野良着の男が、小娘を小突く。


「何を言うか失礼だぞ馬鹿者……済みませんんな娘で」


「何、事実さ。気にしなさんな。正直なは嫌いじゃないよ」


 此の『ばばあ』も結構口が悪い。


「では、よろしく御願いします……」


 男=チェリーの父、は苦笑しながら部屋を出る。だが娘の教育を任せるのだから、老女を信用して居るのは明かだ。


「では、授業を始めるとしようか」


 ……


 チェリーの師匠となったの老女の素性は、かいもくけんとうが付かない。


 或る日突然ふらりと村に現れ、食べ物の余りをるので、最初はじきの類と見られて居た。ちなみに村は貧しく、他人に恵む余裕は無い。


 だが、腕は確かだった。


 村が大型魔獣の襲撃を受け、防戦一方だった自警団を尻目に、難無く撃退して以降、村人から頼られる存在にった。


 ちなみに、大型の魔獣と戦える程に力の有る魔女は上級だ。単身で撃ち果たせる迄なら、相当な実力者だ。


 他に農機具の修理や家畜の治療なども請け負ったが、報酬は多くを求めず、れ迄通りに食べ物の余りをもらうばかりだった。


 なお、本名も不明で、『袋』を提げて居る様から取り敢えず、通称『ズダ』と呼ばれてる。


 ……


 ガリガリと鉛筆の音がする。


 チェリーが黒板の魔法陣を帳面に写してる。


 紙はもちろん、チラシの裏だ。黄ばんだしょうがみる。金持ちの家での張り替えで出たものだ。れらは皆、往来する古紙業者から格安で融通してもらった。


 ような事は気にもめず、チェリーは一心不乱に帳面に向かう。鉛筆も捨てられた使い端で、書き味は決して良くない。


「……(大した集中力だ。いつは拾いものだね)……」


 上でゴソゴソと音がする。


 天井板の無い、き出しの小屋組の梁の影から小動物の影が。


ねずみか……」


 ズダが手を天にかざすと、稲妻がねずみ目掛けてほとばしる。


 きゅ、と鳴き声に続き、黒焦げのねずみが降って来た。


れは久しぶりのそうさね」


 チェリーの家は貧乏だ。村自体からして貧乏だ。土地が痩せて居て収穫が少ないので、食べるので手一杯だ。


 動物蛋白は限られる。家畜は貴重な、荷役や搾乳用で、食べる訳には行かない。川で魚を釣ろうにも、上流の町に水利権と漁業権を押さえられてままらない。


 すずめかえるイナゴなどは獲り尽くした。他は喰われるのを恐れて近寄らない——動物から見て村自体が人喰いモンスター状態と云う。


 森にに行けば茸や木の実が取れ兎等も居るが、魔獣がたむろしてて、入るのは危険だ。


「独り占めは駄目ですよ師匠。私の家で取れたものだから山分けです」


 ねずみは収穫物を荒らす害獣で『討伐』対象だ。弟子の学びの邪魔をするなら、尚更だ。食い荒らした分はの身でつぐなってもらう。貴重な作物で育ったなら、味も格別だろう。



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