君の記録が、終わるまで

諏訪彼方

第1話

 静まり返った病室の中、ひとりの少女が眠っていた。点滴の滴が一定のリズムで落ちる音が静寂を切り裂くように響いている。

 その傍に、もうひとりの少女が立っていた。黒いワンピースのような制服。無表情のままじっとベッドを見下ろしている。


 彼女の名前は――いおり。

 この世のものではない。

 人が「死神」と呼ぶ存在。正しくは“記録係”。


 いおりの仕事は人の「最後の記憶」を書き留めること。

 目覚めることのない眠りに落ちたその人が、最期に何を感じ、何を願ったのか。それを静かに黙って受け取る。それが彼女の使命だった。


 今日、彼女が訪れたのは、少女――彩香の病室。

 記録によれば、余命はあと百日もない。

 だが今はまだ、その時ではない。


 いおりは彩香の顔を見つめた。眠るその横顔にはどこか懐かしい面影があった。


「……どうして、君なんだろう」


 その言葉は、自分でも無意識だった。


 ――そしてそのときだった。


「誰?」


 少女が目を開けて、彼女を見た。

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