第2話

「……誰?」


 その声に、いおりは一瞬だけ瞬きをした。

 予想外の展開だった。死神の姿は通常の人間には見えないはずだから。

 それなのに、目の前の少女――彩香ははっきりといおりを見ている。まっすぐに。その黒い瞳には、疑いも恐れもない。


「あなた……お見舞いの人?」

 柔らかい声だった。病室の白に溶けるような、静かな響き。いおりは答えなかった。ただ黙って、彼女の顔を見つめる。

「……でも、制服じゃないし、友達でもなさそうだし……夜だし……」


 彩香は少しだけ首を傾げて笑った。

 いおりの無言に対して、まるで気にする様子もない。


「もしかして……天使とか?」


 いおりは、わずかに目を細めた。

「違う。私は“記録係”。それだけよ」

「記録……?」


 不思議そうに呟く彩香。その声にいおりは何も説明しなかった。


 だが、彩香はそのまま話を続ける。

「ふふ……まあいいや。あなたが悪い人じゃないのはわかったから。」


 その笑顔を見て、いおりは一歩だけ少女に近づいた。

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