ヒロイン⑤田舎に残した初恋の彼女~柱の背比べの跡 膝枕で傷の手当~

 場面転換 秘密基地の別荘 夜(物置)


 //SE 虫の鳴き声と潮騒の音 少し秋の気配も感じられる


「庭の物置だけは手つかずで、当時の状態のまま保管してあるの」


 //SE ガサゴソと物置内で荷物を取り出す音


「お兄ちゃん!! 漫画を読んでサボってないで、タイムカプセルのありかを真面目に探して」


 //SE ガサゴソと箱を開ける音 漫画本を閉じる音が重なる


「う~ん、どこにタイムカプセルを隠したか、全然わからなくなっちゃった」//困った様子


「自分たちで隠したのに、我ながら上手だと思わない」


 //SE 腕組する衣擦れの音


「変な感心している場合じゃないって!? それはもっともな話ね。お兄ちゃんに一本取られたかも、うふふっ!!」


 //SE ガサゴソと荷物を探す音 田舎の環境音が重なる


「なぜタイムカプセルを作ろうって言い出したのかって?」


「先にお兄ちゃんが言い出したんだよ。未来の自分たちへ向けて、手紙を出す大事なイベントだって。……ふたりの想い出をこの秘密基地に残すんだ。って力説してしたのを忘れたの?」


「……」//感傷に浸る


「あなたの将来の夢はかないましたか? ……そんな手紙が届いたら素敵だと思わない」


「過去の自分が思い描いた夢を、裏切らない大人に私はなれたかな……」//しんみりとした口調で


「うーん何かヒントを思い出せればいいんだけど、タイムカプセルのカタチとか。お兄ちゃんは何か覚えていないかな?」


「ブリキ缶の箱? そんなのタイムカプセルのカタチじゃないよ。えっ、僕の宝物箱だったお菓子のブリキ缶を使ったって!!」


「ああっ!! 少しずつ思い出してきたかも。当時のお兄ちゃんが大好きだった、カードゲームやミニカーがいっぱい入っていたブリキ缶だね。よく私の前でガチャガチャと箱を振って、とても嬉しそうな顔をしていたっけ」


「でも私のタイムカプセルが何で、ブリキ缶の中に入っているの? お兄ちゃんが私に内緒で隠していたとか」


「あははっ、そんなにむきにならないでよ。ほんの冗談だから。ちょっとからかっただけ。思い出したよ。お兄ちゃんにタイムカプセルを入れてって頼んだんだよね」


「……そうか、お兄ちゃんの家に持ち帰っていないとすれば、この物置のどこかに必ずあるはずよね。当時、秘密基地として使っていたのも主に私の部屋と、この物置だけだったから」


 //SE ガサゴソと物置内の棚を探す音


「お兄ちゃん、こっちに来て手伝って、手が届かないの。そこの高い棚にある銀色の箱が見えるでしょ。カタチも四角いし、アレがタイムカプセルじゃないかな」//声が歩みにより近くなる


(手を伸ばして棚のブリキ缶を取る)


「 ビンゴだよ!! 表にふたりの名前が書いてある。これがタイムカプセルで間違いないよ」//嬉しそうな声


「一緒に探してくれてありがとう」//感謝を込めて


「後でお部屋に戻ってから、ゆっくり開けようね」


 //SE 土の地面を踏みしめる音


「あらためて隣に並ぶと、お兄ちゃんって本当に背が伸びたね。そうだ!! 背比せいくらべの柱の跡が、まだ物置にあるんじゃない?」


「お兄ちゃん、そこの柱を懐中電灯で照らしてくれる」


「……」//固唾をのむ


 //SE 虫の鳴き声が大きくなる


「ほらっ、やっぱりまだ柱の傷が残ってるよ。すご~い!!」//その場で飛び跳ねて声が上下する。


「ねえお兄ちゃん、もっと柱の近くまでいってよく見てみようよ!!」


 //SE 波音がこちらの腕を掴んでくる。衣擦れの音。物置の中に響く足音


「……この傷の横に、はのんって書いてある。隣の傷はお兄ちゃんの背丈の跡だよ!!」//嬉しさでうわずった声色。吐息が耳もとにかかる距離感


「あれっ、おかしいな? 私の背丈の傷が、ずっと高い位置に刻んである!? どうしてなのかな。波音の記憶では、お兄ちゃんのほうがかなり背が高いと思っていたのに……」


「お兄ちゃん、私の横に並んでくれる。……んもうっ。もっと柱の近くまで来てくれないと昔の背丈と比べられないよぉ!!」


「そうそう、もっと波音の近くまできて。暗いから足元には気を付けてね」


 //SE 床を歩く足音の後で、ガツンと柱に頭がぶつかる鈍い音。物置全体が激しく揺れ棚の荷物がカタガタと音を立てる


「あああっ、だから言わんこっちゃない!! だ、大丈夫お兄ちゃん、すごい音がしたよ。頭を柱に思いっきりぶつけたでしょ」//慌てふためき心配そうな声色


「えっ、僕は石頭だから平気だって? そんなのダメだよぉ!! ほらっ、早く私の膝の上に頭を載せて、血が出ていないか良く確認するから」


 //SE 慌てて駆け寄る波音の足音と大きな衣擦れの音


「もう、お兄ちゃんは石頭なんて強がりを言っちゃって……。こんなに大きなたんこぶが出来てるじゃない!!」//咎める口調の中にも狼狽した様子


 //SE ぎゅっと頭を波音の腕で抱きしめられる音。衣擦れの音も激しくなる


「早く手当てしなきゃ!! 救急セット、物置のどこかにあったはず」


 //SE もぞもぞと膝を動かす度に大きくなる衣擦れの音


「……お兄ちゃん!? いまなんて言ったの?」


「子供の頃、波音がしてくれた手当てが、いちばん僕には効くって!?」


「……」しばし思案した後でため息を漏らす


「もうっ、お兄ちゃんったら本当に変わっていない!! ……呆れちゃうけどそんなところも私は大好きだったんだよ」


「何だか照れるなぁ。ん~~っ。でも早く手当てをしなきゃ!! きょ、今日は秘密基地の再開記念で、特別サービスなんだからね、私にめちゃくちゃ感謝しなさいよ!!」


「……お兄ちゃんのいじわる、いまはメスガキちゃんの役柄は憑依していないから」


「現役女子高生、生足の膝枕のオマケつきなんだから。……ありがたく思いなさい」//恥ずかしそうにぽつりとつぶやく


 //SE もぞもぞと膝を動かす度に頭が揺れる 衣擦れの音と柔らかい膝のむにゅむにゅした感触の音


「よし!! こうなったら私も開き直っちゃうからね。主導権イニシアチブは絶対に渡さないから。元天才子役のプライドにかけて!!」


 「じゃあ、私の息で、たんこぶを優しくふ~ふ~して手当してあげるからね……」


 「ふ〜〜っ、ふ〜〜っ!!」//演技依頼 セリフではなく本物の息で


 「ふ〜〜っ、ふ〜〜っ!!」(※上記演技依頼の繰り返し)


 //SE 息を吹きかけられる度に、頭を動かすモゾモゾという音が大きくなる 衣擦れと膝のむにゅむにゅ音も同期する


「どうかな、波音の手当て。痛いの痛いの飛んでった? ええっ、もっと息を強く吹きかけてくれって!? 変なお兄ちゃん 仕方がないな 」


「ふ〜〜っ、ふ〜〜っ!!」


「ふ〜〜っ!? ひゃああっ!! お、お兄ちゃん、それは反則だよ!! 頭をおひざの上でグリグリ動かしすぎだよぉ。くふぅん!? お兄ちゃんの髪の毛が、私のももにモゾモゾしてくすぐったいよぉ!!」


 //SE 頭を動かすモゾモゾという音がさらに大きくなる 衣擦れと膝のむにゅむにゅ音も同期するように高まる


「波音のあたたかい息が、自分の頬にあたって気持ちいいって!? な、何か変なこと考えてない!! ……こらっ、頭を動かしちゃダメって言ってるでしょ!!」


「もうっ、じっとしてなきゃ、また別の役柄を憑依させて、お兄ちゃんを厳しく指導してやるんだからぁ!! ……調子にのるのもいい加減にして!! 返り討ちにするから覚悟しなさいよ!!」


 //SE ギュッと腕で頭を押さえつける音。激しい衣擦れの音。膝のむにゅむにゅ音。


「波音、お兄ちゃんなんかに負けないから!!」//涙声の中にも決意を表す


//SE 静かな虫の鳴き声に潮騒の音が重なる



 

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