ストライカーは今日も頂点に立つ夢を見る
じぇにーめいと
第1話 天才一人、ここにあり
「では早速、新入生の実力を確かめるため一年生でチームを組み、上級生と試合をしてもらう」
ここは私立宝栄学園のサッカーグラウンド、そこに30人ほどの生徒たちが集まっていた。
三分の一は一年生、サッカー部に入部を決意した者たち。
一年生の全員が神妙な面持ちで上級生の話を聞いている。
それもそうだ、もしこの試合で活躍することができれば監督からの注目も集まる。
レギュラーを取ることも夢じゃない。
「えっと一年生はちょうど十一人か、じゃあ話し合ってポジションを決めて」
一年生が集まり、話し合いが始まる。各々小学生時代に担当していたポジションを言っていく。
しかし一人だけ発言をしないものがいた。
オレンジ色の短髪に気だるそうな目つき、今からスポーツをするものとは思えない。
「お前、ポジションどこ?」
一人の少年が、黙っている少年へと問いかける。
「どこでもいいよ、余ったところでいい」
「それじゃあ、
4-2-3-1とはDF4人、MF5人、FW1人の攻守に優れた最もスタンダードなフォーメーションである。どんな相手にも対応しやすいため使用するチームが多い。
準備運動を済ませたのち各々が定められたポジションにつく。
ボールが中央に置かれ、審判が笛を口にくわえ、――鳴らした。
スタートは一年生がボールを持つ。
一年生とはいえ口ぶりからして全員が経験者、即席のチームとは言えども前方へとパスを回していく。
だがもちろん上級生たちもただ見ているだけではない。
一年生がパスを受け取った少しボールが足元から離れた瞬間、そこを見逃さなかった。すぐさまボールを奪取する。
そこから始まる、高速カウンター。
一つのほころびが敗北への一歩となる。
守備ラインの上がりすぎたRSBそこを三年生のFW駆け抜けていく。
「右サイド上がりすぎ! 何やってんだよ!」
一年生から怒号が飛び交う、それもそうだろう。
普通、DFという物は自分の陣地にDFが一列になりディフェンスラインという物を形成する。
フットボールの守備において一番恐れなければならないのは相手をフリーにして裏に抜けられること。
今回の場合、右サイドのDFが前に出すぎた結果、後ろを抜かれDFのいない通路を相手に作ってしまったということ。
その結果、このようになってしまう。
「よっしゃゴール、一年生ディフェンス甘いんじゃない?」
これは経験者ならばまずしないであろう初歩的なミス、だが仕方のないことなのかもしれない。
「お前、上がりすぎなんだよ。サッカーやったことないのか?」
「うん」
「うんってお前、何言って」
「僕、サッカーやるの今日が初めてだから」
このオレンジ髪の少年、
「じゃあ何でサイドバックやってんだよ……」
先ほどまで怒っていた少年が今度はうなだれ、かすれるような声で言う。
4人以上のDFを必要とするフォーメーションの際に使用されるポジションだ。
その名の通りDFの左右に位置する。
昔のフットボールにおいてのSBはただ守備をするだけの存在だったが現代では違う。
攻守両面での活躍が求められ、敵陣と自陣を行き来するハードワークを必要とされる。
簡単に言うならばサッカーIQと無尽蔵の体力を求められる最も難しいポジションということだ。
少なくともサッカー未経験者にやらしていいポジションではない。
「どうする? 今からでもポジション変えるか?」
一年生たちが話し合っている中、一人の少年が声を上げた。
「俺が変わろうか?」
金色の長髪を後ろで束ねた少し目つきの悪い無骨な印象を受ける少年。
先ほどまではFWをしていた。
「俺、小学生の時はSBだったから」
「マジ? 助かるわサンキュー」
零は金髪の少年と変わりFWについた。
FW、最前線のポジションに位置づく言わばチームのの点取り屋。試合のカギを握るキーパーソン、そんなポジションに初心者を置いていいのかと思うかもしれないがこれはあながち間違いではない。
FWにおいて最も重要視される役割、それはやはり点を取ること、だがその点を取る機会は試合中に何度訪れるだろうか?
FWとは言ってしまえばパス回しの終点、要するにボールに触れる機会が一番少ないポジションということ、変に初心者を割り込ませるよりはFWに置くというのはよくある話なのである。
試合は進んでいく、しかし零がボールに触れる瞬間は訪れない。
その理由は明確だ。
零が初心者だから、敵にボールが奪われるだけ、皆がそう思っているから。
だが偶然とは奇妙なものである。たまたま三年生がはじき出したボールが零の足元へとやってきた。
「こっちだ、パス!」
味方が早くボールをよこせと声をかけてくる。
が、零はボールを蹴らなかった。いや正確には蹴れなかった。
それはなぜか、零はパスの方法を知らなかったから。
だから零は自分の知っていることをやったことのある動作だけをした。
コートの中央を駆け抜ける。
それは簡単なことではない、中央とは最も人が集まる場所。もちろん彼からボールを奪おうと敵がやってくる。が誰一人としてボールには触れられなかった。
零、彼がボールを動かせばそこに道が生まれた。
まるでそこを通るのが当たり前かのように零は次々と敵をかわし、ゴールへと近づいていく。
そして
その場にいた全員が凍り付いた。
さっきフットボールを始めた少年が上級生を6人もかわし、その足でゴールを貫いた。
もはや天才の域を超えていた。
この場にいる誰もが感じたであろう圧倒的な気迫。
この場にいる誰もが思ったであろう。
――怪物が現れた、と。
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