第4話 初狩猟!
狩猟の準備を進める中、武器の試作も行われた。
作り上げた弓の試射を試すことになり、仲間たちが次々と矢を放つ。
すると、サーシャ、ケイト、ノエルが特に弓の才能がありそうだとわかった。
男たちはまるでダメだった。
「オスカー、弦をもう少し強く張ってもいいかも」
サーシャがオスカーに要望すると、オスカーは衣服から糸を解き、一本一本をねじり込んでいった。
しかし、彼の力では弦を張るのは難しく、そこはザックが手伝う。
改良した弓で再び試射をするサーシャ。
すると驚くことに、ほぼ狙い通りに矢を放った。
「サーシャ、お前弓を扱うのは初めてだよな?」
シマが驚いた顔で問いかけると、サーシャは当然のように答えた。
「当たり前じゃない。今まで一緒に生活していたんだから、わかるでしょ?」
ケイトやノエルも、弓の感触を確かめながら要望を伝えていく。
彼女たちもサーシャほどではないが、徐々に精度が上がっていった。
すると、その様子を見ていたメグがオスカーに駆け寄り、袖を引っ張った。
「わたしのも作って!」
メグの頼みに、オスカーは少し考えた後、微笑みながら頷いた。
彼はすぐに小さめの弓を作り上げ、メグに手渡す。
矢の勢いはそれほどでもないが、狙ったところにはしっかりと放てるようだった。
「やった!」
メグは満面の笑みを浮かべ、小さな手で弓を握りしめた。
翌日はいよいよ初めての狩猟となる。
仲間たちは火の灯る家の中で話し合いを重ねていた。
狩猟に出るメンバーは、シマ、ザック、サーシャ、ジトー、クリフ、ケイト、ノエル、フレッド、そしてメグ。
メグはどうしても行きたいと駄々をこね、結局シマが折れる形で了承することになった。
妹には甘いシマの性格が、ここでも顔をのぞかせた。
ロイドとリズは川で魚を獲る役割を担当し、トーマスは狩猟に使えそうな槍や弓の材料を集めるのと並行して、薪として使える木材を探すことになった。
エイラとミーナはトーマスからはあまり離れず森で木の実を集める係となった。
オスカーは弓と矢の制作に集中する。
狩猟の狙いは鳥や兎、蛇などの小動物。仲間たちは注意点を確認し合った。
「風上には立たないこと。一人で行動しないこと。余計なおしゃべりはしないこと」
シマの言葉に、みんなが真剣な顔で頷く。
狩猟が初めての者ばかりのため、慎重に行動する必要があった。
そんな中、クリフが疑問を投げかけた。
「もし獲れたとして、どうやって処理するんだ?」
「要は魚と一緒だろ?」
気楽な様子で言うフレッドだったが、シマは首を横に振る。
「違う。血抜きが大事なんだ。これをしっかりやらないと、全然味が違うらしい」
クリフが驚いたように問いかける。
「…へぇ、シマ、お前いつの間にそんな知識を覚えたんだ?」
ザック、ジトー、サーシャ、ケイトも同調し、それぞれ口々に言う。
「スラムでもそれなりに頼りになっていたけど、今ほどじゃなかったよな」
「前は、ただのがむしゃらなガキって感じだったけど」
「確かに、最近のシマは何か違う気がする」
話を聞いていたフレッドやノエルも、そうなのかと興味深そうに顔を向ける。
シマは少し考えた後、曖昧な笑みを浮かべながら言った。
「何、俺もいろいろと思うことがあってな」
それ以上詳しくは語らず、話題を狩猟の準備に戻す。
翌朝、狩猟隊はまだ薄暗い森の中を進み始めた。
空には朝もやがかかり、ひんやりとした空気が肌を刺す。
足音を抑えながら、慎重に歩を進める。
「まずは兎を狙おう」
シマが小声で指示を出し、仲間たちはそれぞれ弓を手にする。
サーシャ、ケイト、ノエルは特に弓の扱いが上手く、静かに矢をつがえる。
フレッドとジトーは槍を握りしめ、万が一獲物が近づいた時に仕留める準備をしていた。
初めての狩猟は、想像以上に難しいものだった。
シマたちは森の中に入り、それぞれ慎重に歩を進めたが、慣れない動きにより枝を踏み鳴らし、小さな鳥やウサギはすぐに逃げてしまう。
弓を構えたサーシャやケイトも、標的をとらえる前に動きを読まれ、矢は空しく木々の間を抜けていった。
「くそっ……全然ダメだ」
ザックが舌打ちする。
シマも冷静に分析するが、思ったよりも獲物に近づくことすら難しい。
やっとのことでクリフが槍を構えたが、タイミングがずれて獲物のウサギに逃げられる。
シマも投石を試みたが、岩に当たって大きな音を立てただけだった。
「全然獲れないな……」
焦りと苛立ちが募るが、シマは深呼吸して言った。
「まずは静かに動くことからだ。慌てるな、やり方を見直そう」
こうして、彼らの狩猟の試行錯誤が始まった。
何度も失敗しては話し合いを繰り返して。
しばらく進むと、茂みの奥で小さな動きがあった。
シマが手を挙げ、全員がその場で静止する。
息を潜め、じっと目を凝らすと、一匹の兎が草を食んでいるのが見えた。
「サーシャ、いけるか?」
シマが問いかけると、サーシャは無言で頷き、ゆっくりと弓を引いた。
狙いを定め、矢を放つ。
シュッ。
矢はまっすぐ兎へと飛んでいき、見事に命中した。
兎は短く跳ねた後、地面に崩れ落ちる。
仲間たちが静かに歓声をあげる。
「やったな!」
サーシャは小さく笑みを浮かべた
だが、これが終わりではない。
シマは手を挙げ、次の指示を出す。
「次は鳥を狙う。木の上を見てみろ」
ケイトが鳥を見つけ、矢をつがえた。
静かに弦を引き、呼吸を整える。
狙いを定め、放った矢は見事に木の上の鳥へと命中した。
「やった……!」
興奮気味に声を上げるケイト。
しかし、シマはすぐに注意を促した。
「まだ他にも獲物がいるかもしれない」
仲間たちは気を引き締め、狩猟を続けた。
その後も蛇や他の小動物を捕らえ、十分な成果を上げた。
森を抜けたころには、みんなの表情には達成感が浮かんでいた。
こうして彼らの初めての狩猟は大成功を収めたのだった。
狩りの後、仲間たちは家へと戻り、捕まえた獲物の処理を始める。
拙いながらもシマが手本を見せながら、血抜きや皮の剥ぎ方を教えた。
最初は戸惑いながらも、皆が一生懸命に作業をする。
リズが調理を担当し、焼き上がる肉の香ばしい匂いが家の中に広がる。
焚き火を囲んで食事をする仲間たちは、今日一日を振り返りながら笑い合った。
「また狩りに行きたいな」
サーシャがつぶやく。
狩猟の成功に満足した表情を浮かべながら、焚火の炎を見つめる。
シマが答える。
「しばらく続けるぞ。冬を越すためにな。肉は余れば燻製にするし、毛皮はあればあるほどいい」
その言葉に、サーシャだけでなく、ケイト、ノエル、メグも目を輝かせる。
狩りの楽しさと生きるための手段が結びつき、彼女たちは次の狩猟を心待ちにしているようだった。
シマは狩猟に参加していない仲間たちにも声をかける。
「ロイド、リズ、何か問題があったか?」
ロイドは笑顔で首を横に振る。
「何も問題はないよ。むしろ、今の僕たちは自分の力で生きているんだっていう実感がある。すごく充実してる。肉も美味しいしね。」
「肉もうめえけど、ロイドたちが獲ってきた魚もうめえよ!」
フレッドが声を上げると、ザックも同意する。
「だよな!」
ケイトも微笑みながら言う。
「私たち、結構贅沢な食事をしてるわね。少し前じゃ考えられないくらいだわ」
「明日はもっといっぱい獲って来てあげるわ!」
リズが意気込むと、周囲から歓声が上がる。
次に、シマはトーマスに話しかける。
「問題はないか?」
「問題はない。ただなぁ……」
トーマスは少し考え込んだ後、ため息をつく。
「斧があれば、もっといっぱい木を切り倒せるんだけどなあ」
「ないものねだりだぜ」
ザックが肩をすくめると、トーマスも苦笑する。
「まあな。こればかりは仕方がない」
「エイラとミーナの方にもできるだけ気を配ってくれ」
シマはそう言いながら、エイラとミーナにも目を向ける。
「エイラ、ミーナ、何かあればすぐにトーマスを頼れ」
「うん、わかったわ!」
ミーナが元気よく答える。
エイラも優しく微笑んだ。
「その時が来たら頼りにするわ、トーマス」
「おう、任せろ!」
トーマスは胸を張って答え、一同に笑いが生まれた。
最後に、シマはオスカーに声をかける。
「オスカー、家の中に一人にさせてすまんな。寂しくないか?」
オスカーは手を振りながら笑う。
「全然寂しくなんかないよ。お昼頃にはロイド、リズ、トーマス、エイラ、ミーナも帰ってくるし、色々作っていると時間があっという間なんだ」
「無理だけはするなよ。」
「眠くなったらいつでも寝ていい。」
「そうそう。」
「仲間たちを頼れ」
みんなの言葉に、オスカーは嬉しそうに頷いた。
「うん、ありがとう。大丈夫、僕も頑張るよ」
こうして、それぞれの役割を再確認し、仲間たちは新たな一日へと向かっていくのだった。
翌朝、シマたちはいつものように作業を分担しながら、それぞれの役割に取り組んでいた。
狩猟班は準備を整え、次の狩りへと向かう計画を立てる。
「今日の目標はどうする?」
ザックがシマに尋ねる。
「まずは小動物を中心に狩る。鳥や兎、それに蛇も狙っていこう」
「風上には立たないこと、一人で行動しない、余計なおしゃべりをしない……」
ケイトが復唱するように言う。
「そうだ、基本を守れば獲物は逃げにくい」
シマは頷いた。
一方で、ロイドやリズたち漁を担当する組も計画を練っていた。
「昨日は結構獲れたけど、今日はもう少し工夫してみようと思うんだ」
ロイドが提案する。
「例えば?」
リズが興味深そうに聞き返す。
「川の流れを利用して、網代わりになるものを作る。何か布や木の枝を組み合わせて魚を追い込める仕組みがあれば、もっと楽に獲れるかもしれない」
「なるほどね。それなら、私も手伝うわ」
リズがうなずく。
エイラとミーナは木の実集めの計画を練っていた。
「昨日よりも奥の方を探してみようと思うの」
ミーナが言う。
「うん、それなら今まで見つけられなかった木の実があるかもしれない」
エイラが同意する。
トーマスは薪を集めながら、時折みんなの様子を気にしていた。
「みんな、それぞれの役割を楽しんでるな」
シマが仲間たちの様子を見渡しながら、ふと微笑む。
こうして、彼らの生活は次第に安定し、少しずつだが確実に未来への道を築いていくのだった。
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