第5話 成長!

初狩猟から2ヶ月が経った。


気づけば、あの時の興奮や緊張が日常の一部となり、狩猟も漁も、採集も、それぞれが当たり前の仕事として根付いていた。


今日はあいにくの雨。

灰色の雲が空を覆い、朝からしとしとと降り続けている。

外に出ることもできず、みんな家の中でまったりと過ごしていた。

薪が十分にあるおかげで、焚火の暖かさが心地よい。


このところの食料事情が良くなり、仲間たちの肌ツヤもよくなった。

かつての栄養失調の面影はなく、体つきもしっかりとしてきている。

一冬を超えるだけの食料も備蓄され、薪や枝も十分に確保できている。

水も豊富にあり、飲むときは煮沸してから口にするよう言い聞かせていた。

その甲斐あってか、体調を崩す者もほとんどいない。


「冬の間は何をするの?」

ふとミーナが問いかける。


「鍛錬だな。せめて剣を振り回せるようにならないと」

シマが答えると、ザックやロイド、フレッド、クリフが頷いた。


「じゃあ私たちは弓の練習ね」

ケイトが言うと、サーシャとノエルも賛同する。


「それと、針と糸があればいいんだけどねえ……」

リズがため息をついた。


冬の間、何か作業ができればいいのだが、手仕事をするには道具が圧倒的に不足している。


家の中を見渡せば、一枚一枚のサイズは小さいが、かなりの量の毛皮が積まれていた。

今も下に敷いて座っているものだ。

これを縫い合わせれば、毛皮のコートや敷物が作れるかもしれない。


「そういえば、あの奴隷商人から奪った金や身に着けていた金目のものは?」

ふと思い出し、シマが尋ねると、エイラが頷いた。

「しっかり保管してあるわ」


彼女は袋を取り出し、みんなの前で金貨を並べた。

その手際の良さに、さすがは元商人の娘だなと笑いが起こる。


数えてみると、白金貨2枚、金貨30枚、銀貨10枚、銅貨8枚。

(日本円で換算すると約240万8000円相当)


「抜け目がないな」と笑う者、「そんなにあるのか!」と驚く者、様々な反応があったが、スラム育ちの仲間たちにはいまいち実感が湧かないようだ。


「どのくらいの価値があるの?」

ケイトが尋ねると、シマは少し考えた後、わかりやすく説明することにした。

「パンに例えると……大体12000個くらい買えるってことだ」


「マジか!」「すごい!」

「ほへ~」「想像もできないわね」


驚きの声が次々と上がる。


しかし、シマは真剣な表情で言葉を続けた。

「だが、白金貨は使えないな。俺たちみたいな子供がそんなものを持っていると知られたらどうなる?」


「無理やり奪うでしょうね」


「最悪、殺してでも」


サーシャとエイラが厳しい表情で答える。


「そういうことだ」


仲間たちは改めて金の価値と危険性を理解した。

これからどう使うかは慎重に考えなければならない。


「それにしても、これだけあれば武器や道具を買えるかもしれないわね」

エイラが呟く。


だが、子供たちだけで交易をするのは容易ではない。

どこかに信用できる仲介役がいればいいのだが……。


「まあ、今すぐどうこうするわけじゃない。まずは冬を越してから考えよう」

シマが言うと、一同は納得したように頷いた。


雨音が静かに響く中、それぞれが今後のことを思案していた。

冬の間にすべきことは山ほどある。

鍛錬、食料の管理、そして道具作り。

春になれば、さらに生活の幅を広げることができるかもしれない。

シマは焚火の炎を見つめながら、仲間たちと過ごす未来を思い描いた。


雨音が静かに響く中、それぞれが今後のことを思案していた。

焚き火の炎が揺れ、薪が爆ぜる音が心地よいリズムを刻む。

外は冷たい雨が降りしきっていたが、小屋の中は温かく、ほんのりと湿った木の香りが漂っている。


そんな時、メグがふとシマを見上げた。

「お兄ちゃん、あのスープが飲みたい」


彼女の瞳は期待に満ちている。


「あのスープって、骨のやつか?」


 「うん!」


魚の骨、ウサギの骨を砕いて煮込み、丁寧に灰汁を取り除く。

たったそれだけの手間しかかけていないスープだったが、メグをはじめみんなから絶賛されていた。


「少し夕食には早いけど、明日の狩りの準備を進めつつ作るか」


鍋に水を張り、骨を入れて火にかける。

薪の爆ぜる音とともに、心地よい湯気が立ち上った。

ロイドやリズも手伝いながら、スープの仕上がりを楽しみにしている。


「明日は誰が一番多く獲物を仕留めるか競争よ!」

サーシャが意気込み、ケイトやノエルも乗り気だ。


「私だって、いっぱい仕留めるもん!」

メグまで張り切っている。


「無茶はしないでくれよ。」

ロイドが年長者らしく諫めるが、彼女たちは負けず嫌いのようで、やる気に満ちていた。


ここ最近、こうしたやり取りが目立つようになった。


「またかよ」


苦笑いする者、呆れる者、肩をすくめる者。

そんな何気ないやり取りが、みんなの日常になっていた。


スープが煮立つにつれ、部屋中に香ばしい香りが広がっていく。


サーシャが蓋を開けると、ふわりと湯気が立ち上り、皆の空腹を刺激した。


「おいしそう!」

ケイトが目を輝かせる。


「これでまた力がつくな」

ジトーが腕を組みながら頷く。


「じゃあ、いただきます!」

メグの元気な声を合図に、みんながスープを口に運ぶ。


「うん、やっぱりおいしい!」


「これなら毎日でもいいな」


「うんうん、体が温まるね」


温かいスープを飲みながら、みんなで語らう。

時折、冗談を言い合い、笑いが絶えない。

奴隷として売られようとした時の悲壮感は、もうどこにもなかった。


翌朝、シマたちはいつものように準備を整え、狩りへと出発した。

最近は朝晩の冷え込みが厳しくなり、草木に霜が降りることも珍しくなくなった。


シマは、そろそろ冬支度に集中する時期だと考えていた。

「今日で狩りはひとまず終わりにする。そろそろ本格的な冬が来るからな」


仲間たちにそう告げると、みんなは少し残念そうな表情を浮かべながらも、納得したように頷いた。


シマは出発前に改めて持ち物を確認する。

「携帯食料、水、獲物を入れる袋……それから武器。忘れ物はないな?」


この二ヶ月で、彼らの狩猟技術は目覚ましい進歩を遂げていた。

最初の頃は獲物を追うのに苦労し、狩りの成功率も低かった。

しかし、日々の経験を積み重ねることで、今では各自が自分の役割を理解し、連携を取るのが当たり前になっていた。


特にサーシャ、ケイト、ノエルの弓の腕前は驚くほど上達していた。

彼女たちはただ獲物を狩るだけでなく、どこを狙えば苦しませずに仕留められるのかまで考えながら撃つようになった。

狩りが彼女たちにとって生存の手段であるだけでなく、仲間を守るための技術にもなっていた。


「サーシャ、お前の狙いは相変わらず、すごいな」

シマが感心すると、サーシャは得意げに笑った。

「当然よ。何度も練習したんだから」


ケイトとノエルも同様に、かなりの腕前になっていた。

彼女たちの放つ矢は、獲物の動きを正確に捉えていた。


一方で、メグもそれなりに上達していた。

5歳という年齢を考えれば、彼女の成長は驚異的だった。

まだまだ危険な場面では守られる立場だが、小さな弓で確実に獲物を狙うことができるようになっていた。


「メグ、焦らなくていい。無理するなよ」


「わかってる!」

少し不満そうな顔をしながらも、メグはしっかりと頷いた。


そして、シマたちは獲物を仕留めた後の処理も、以前よりはるかに手際よくなっていた。

肉の部位ごとに切り分け、内臓を取り除き、食べられるところとそうでないところを判断する技術を身につけていた。


「最初の頃はめちゃくちゃだったのにな」

クリフが苦笑いしながら言った。


「そうだな。でも、これも生きるために必要な技術だ」

シマがそう答えると、みんなは深く頷いた。


最後の狩りに向けて、彼らはこれまで以上に気を引き締めて森の奥へと進んでいった。

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