第22話 ※グロ注意
「カナリア……どうしよう……」
ユリの声は、今にも泣き出しそうだった。
その背後にある、赤黒く膨れあがった塊。
目が慣れるにつれ、その正体が――遺体であることがわかってくる。
あたりには冷気が漂っていた。岩壁の割れ目から滴り落ちる清水が、床を濡らしている。
それが、どこか禍々しい清めの水のように思えた。
棍棒が転がっている。布が引き裂かれ、血にまみれてこびりついている。
床に広がる肉塊は、間違いなく人間の――子どものものだった。
片足は切り落とされ、壺の中で浸けられていた。腹部は打撲によって黒ずみ、皮膚が破れて肉がはみ出している。
そのすべてが「食用」として加工されかけていた。殴打は肉を柔らかくするため。足を漬けたのは保存のため。
血の乾いたナタには、まだ小さな手の肉片が付着していた。
「いや……いやあ……」
ユリの膝が崩れ落ちた。口を押えて、嗚咽を堪えようとしたが、声にならない。
まるで自分の体が切り刻まれたかのように、顔が青白く変わっていく。
しばらく立ち尽くしていたが、やがてその場に倒れ込んで意識を手放した。
カナリアは一歩、遺体へ近づいた。
「……間に合わなくてごめんね」
短くつぶやいて、剣を一閃する。火魔法をかけた刃で、遺体に点火した。血や脂が焦げてはぜる音が、静かな巣穴に響く。
完全に骨になるまで、カナリアはその場を動かなかった。骨を丁寧に集める。子どもの小さい体はさらに小さくなった。
ユリの寝息が聞こえる。目を覚まさないことに、今はただ感謝した。
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