第21話

ロイは、投げ飛ばされてきたゴブリンに向けて浄化魔法を放った。

逃げることも、避けることもできない――一直線に飛んでくる、まさに的そのもの。

光の弾は寸分違わず命中し、ゴブリンの身体を貫いた。

悔しげにユリを睨んでいたゴブリンたちも、次々に浄化され、光とともに消えていく。

「ロイ! こっちも頼む、浄化だ!」

グレンの声を聞いて、ロイはキングゴブリンに標準を合わせた。

巨体はもはや立つのがやっとの様子だ。それでも膨大な魔力をまとっている。

ロイは息を整えながら魔法を構築し、渾身の力で魔力弾を撃ち込んだ。

ずしん――と鈍い音を立てて、キングの身体が崩れ落ちる。

ロイの肩が上下に激しく揺れていた。特訓で鍛えたとはいえ、これほど魔力を連続で使ったのは初めてだ。


息を切らしながら横目に見た先で、カナリアはまだシャーマンと対峙していた。

シャーマンは呪詛のような言葉を吐き続けながら、逃げ道を作ろうと岩壁を立ち上げていく。

その岩の壁を前にしても、カナリアは一歩も引かない。苦しむ素振りすらない。


――まるで、ケーキでも切るかのように。


剣を横に一閃。シャーマンの生み出した岩壁は真っ二つに断たれた。

跳ねて逃げようとしたその足を斬り、倒れ込んだシャーマンの口に向けて、カナリアは一切のためらいもなく剣を突き立てた。


「……終わった」


ロイがその場に膝をついた。だが、正確には“終わって”などいない。

巣の奥には、まだ小規模なゴブリンたちが潜んでいるはずだ。

けれど、キングとシャーマンを討った今、巣はほぼ壊滅と見ていい。

横では、グレンがうめくように痛みに耐えていた。

ロイはふらつく足で立ち上がり、彼のもとへ駆け寄る。

「……ごめん、いま、痛みを和らげるから」

言葉も息も荒いまま、ロイは掌をかざし、ゆっくりと浄化魔法を注いだ。

魔力の光がグレンの傷を癒していく――そして、彼は静かに意識を手放した。


一方、カナリアは水魔法を展開し、辺りに広がっていた炎と油を洗い流していく。

完全には気を緩めず、周囲に目を配りながらロイとグレンの元へと戻ってくる。

――そのときだった。


「キャアアアアアアアッ!!」


巣穴に響く、ユリの絶叫。

それを聞いた瞬間、カナリアの目が鋭く細められる。

「ロイ、すまない。もう少しだけ辛抱してくれ」

ロイは静かにうなずいた。カナリアは彼に一瞥をくれると、声のした方へ駆け出していった。




暗がりの奥――

ユリは、壁際で茫然と立ち尽くしていた。

その手は、べったりと赤黒い血に染まっている。

「あ……カナリア……」

震える声が漏れた。

こちらを振り返ったユリの表情は、怯えと混乱に満ちていた。

「どうしよう……姉さん……どうしたらいいの……」

その足元には、何かうずくまった小さな影があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る