第7話 血の契約

「…ぅん、うん?」


 どれくらい経っただろうか。ルークは目を覚ました。


「あら、起きたのね」


 そして、ルークの眼前には赤い目をした美女 ヴァルヴァイラの顔があった。


「あ、ああ。すまない。俺はどれくらい寝ていた?」

「ん〜、だいたい30分くらいじゃない?」

「そうか、それは悪かったな」


 そう言うと、頭に柔らかい感触があることに気がついた。


「…すまぬ。長時間膝に頭を置かれるのはさぞ不快だっただろう」


 俺は気づくと否やすぐに頭を上げ、謝罪する。

 ヴァルヴァイラは舌で上唇を舐め、妖艶ようえんな表情で言う。


「別に構わないわよ〜。ぐっすり、眠ってるご主人様も可愛かったし」

「……お前、性格変わったか?口調も随分柔らかくなったな」


 なんだこの変わりようは……

 逆に気味が悪いまである。


「私の素は今の方よ」

「そうなのか?」

「ええ、あの時は威厳を示す必要があったから無理やり口調を変えてただけよ。舐められる訳にはいかないからね」


 そういうことだったのか。

 原作ではどうだっけな。忘れた。


 てか、改めて見ても思わず見惚れてしまいそうだ。整った顔つきに、長く綺麗な銀髪、そして、赤く輝いている眼。座高もかなり高いな。ざっと170はありそうか?……っていかんいかん。見惚れてる場合じゃない!


「…ゴホン、まあいい。とりあえずは無事復活させることに成功したのを喜ぶとしよう」

「ふふ、そうね」

「そうじゃな、ワッハッハ」


「「…」」


 あ、すまん、グレア。お前の存在、完全に忘れてたわ。ま、ヴァルヴァイラも同じ表情だし、大丈夫だろう。


「じゃあ次はお前との契約だな。どうすればいいんだ?」

「あら、さすがのご主人様もそこまでは知らないようね」

「いいから教えろ」

「もうせっかちねぇ〜」


 急かすように言うと、ヴァルヴァイラは自分の爪で自らの指に傷をつけた。


「はい」

「…何が"はい"なんだ?」


 彼女は何を血迷ったのか、床に垂れつつある血のついた指を俺の前に差し出してきた。


「ん、わかるでしょ?」

「舐めろってか?」

「正解ー!わかってんじゃないの」


 は?こいつとち狂ってんのか?


「舐めたら、契約できるのか」

「ん〜、舐めるって行為より、私の血を摂取することで契約が完了するのよ」

「だったら、舐める必要なくないか」

「そんなの、私が舐めて欲しいからに決まってるじゃない」


 ……あ、こいつやべえやつだったのか。クッソ、力を手に入れるのを優先しすぎたか?だが、こいつの力をなくすには惜しい。うぬぬ。


 そんなことを考えていると、


「んぐっ?!」

「はい、めっしあっがり〜」


 この痴女が指を俺の口ん中に突っ込んできやがった。巫山戯んな、この変態ドSやろう!


 閑話休題。


 まあ、何はともあれ、こいつの力を得ることが出来たのは良好だ。良好…だよな?


「ヴァルヴァイラと契約できたのなら、もうここに用はない。帰るぞ」

「そうね」


 五年待ったんだ。


「ククク、これでやっとスタートラインに立てた。ここからは俺の物語だ。誰にも邪魔はさせない。精々、俺を楽しませてくれよ、主人公」


 俺も精々、この世界シナリオから抗い抜いてやるよ。今世では俺が幸せになるためにな。


 ああ、実に楽しみだ。さあ、新たな物語シナリオ始め創りかえようじゃないか。





「あ、そうだ。ご主人様〜、私の名前ヴァルヴァイラって長いからさ。これからはヴァルって呼んでね」

「…へいへい」



 ◇



 ヴァルヴァイラ


 八冥災禍の一人にして、かつて大国を一人で滅ぼした化け物吸血鬼


 人間の血を吸い、死者の魂を取り込む能力を持つ。彼らは夜に人間の魂を吸い、人間の精神を食らうことで不老であり続ける。自分の身体が朽ちることを防ぐためにも大量の魂を吸収し続けなければいけない。


 外見は、身長は非常に高く、鋭く伸びた犬歯や爪、血のように赤く美しく輝いている眼を持ち、薄暗いオーラを解き放つ。


 そして、その吸血鬼の姫であり、頂点に君臨するのがヴァルヴァイラである。


 八冥災禍が封印されているダンジョン。これらのダンジョンは八冥災禍を封印するためだけの場所。つまり、封印が解かれた瞬間ダンジョンは破壊される。

 人間からすればただの危険因子に他ならない八冥災禍の一人の封印が解き放たれたという情報は人間側から見ても一目瞭然となってしまうのだ。

 だが、これは単なる序章プロローグ、いや、前書きオープニング・ノーツに過ぎない。


 ───ルーク・フォン・ゼフィルスの覇道は遂に動き始めてしまったのだ。


 ここは、ゲームではなく現実。これからの物語シナリオがどうなるのかは…まだ誰も知る由もない。



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