最強災厄の転生者が世界を支配する
タケチン
第一章 悪役転生
第1話 全てを失った男の末路
「はあ、はあ、俺って…なんのために生きてるんだろうな」
ひどい大雨の中、1人佇む20代半ばの男が雨の音で消え入るような声で呟く。彼は
今思えば、人生の歯車が狂い始めたのは中学受験の時である。
彼の親は言わば毒親。自分の学生時代の未練を全て息子に押し付け、思い通りにいかねば、監禁され、殴られ続ける。
当然、恋愛など許されるはずもなく、見つかれば両親が彼女を脅し、別れさせられる。そういった日々が続き、人生で最も楽しむべき、青春が終わりを迎えた。
それから、殴られたくないという一心から、かなり偏差値の高い大学へと進学し、大手ゲーム会社に就職。
実は幼い頃から彼はゲームに興味があった。ゲーム機には触れたことすらないが、いつかこの呪縛から解き放たれたら思いっきり遊び、自分が作る立場になれたらなとも思っていた。初めて幸せを手に入れた。彼はその喜びを噛み締める。しかし、そんな幸せが長く続くはずもなかった。
彼の実の親が金を要求してきたのだ。彼は即断った。なぜなら、憧れのゲーム会社に就職してから、これ以上親の傀儡にならないことを決意していたからだ。だが、彼はまだ知らなかった。彼の親が本当の意味で狂っていたことに。
誰が予想できただろうか。ある日、彼が働いている会社に強盗が入ったのだ。周りはパニックになっていて騒がしかったが、混乱していても仕方がないので、冷静にどうしようかと考えていた時、強盗集団の頭らしい男が全員に聞こえるような声で彼の名前を呼んだ。そして、奴はこう言った。
「これはお願いじゃない。命令だ。お前は私たちの為に動いて居ればいいのよ。もし、ここまで言っても断るというのならわかっているな。お前の同僚たち全員が人質となっていることを忘れるな」
これを聞いた瞬間、全てを理解する。そして、思う。あいつらは金の為だけにここまでするのか、と。心の底から屈辱だが、自分の家庭の問題に同僚の人たちを危険な目に遭わすわけにはいかない。渋々、彼は自分の給料の7割を毎月渡すことになった。
それから、数年後、彼にも恋人ができた。いつもそばで支えてくれて、労ってくれるこれ以上のない素敵な女性だった。まだ親には給料金を仕送りしているが、それだけ。もう何年も会っていない。だからこそ、こんな素敵な彼女と付き合えている。
ある日、彼女の誕生日がすぐそこまで迫っていた時、彼はウキウキの気分で銀行に向かっていた。それは彼女の誕生日プレゼントを買う時が来たからだ。彼は毎月欠かさず、親に必要分の金を仕送りしている。が、その残ったお金で少しずつだが、お金を貯めていたのだ。今日この日のために。
そして、彼は銀行に着き、今日まで貯めていたお金を下ろそうと、貯金額を見る。すると、彼は目を見開き、動かなくなった。
「……はぇ?」
彼の頭が理解するのを完全に拒んでいた。認めたくない。認められるはずがない。なぜなら、自分が貯めていたはずのお金が"全く"なかったからである。数年間、貯めたお金が…である。
その日からこれまで愛していた彼女が音信不通となった。
大雨の中、思い出しながら歩いていると、特に行き先などないのだが、気がつくと、駅のプラットフォームにいた。彼は生気のない目をしながら、電車が来るのを待っていた。
少し時間が経つと、電車が目の前を通過しようとしていた。すると、背中にわずかだが衝撃を感じた。誰かに押されたらしい。体勢が崩れ、前に倒れゆく中、彼は後ろをちらりと見た。彼は即座に見なければよかったと後悔した。彼の目には愛していた恋人と……実の毒親の両親が映っていた。
彼らは裏で繋がっていたのである。彼をどん底に落とすために。
その記憶を最期に意識が途絶えた。
◇
「フフフフフ、全てを身内から、恋人から奪われた悲しき哀れな男。そして、あまりにも悲惨な運命を辿りし者」
見渡す限り、真っ白で覆われた空間で一人の女性の声が鳴り響く。
「汝に1度だけチャンスを与えよう。貴方が転生を果たした時、貴方は何を目指し、何を為すのか、今から楽しみで仕方がありません。精々、私を楽しませてくださいね、近藤雅都…、いや、ルーク・フォン・ゼフィルス」
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