第19話

「皆さんどうか、フレンを助けて貰えないだろうか?」

「分かりました。コランさん、奥様は今何処に囚われて居るか分かりますか?」

「手紙には、種を王都の外れに持って来いと書いてあった。」

「分かりました。では、其処に参りましょう。デイトス様、お茶の途中ですが、失礼させて頂きます。」

 僕はそう言うと、デイトス様達は頷いてくれた。

「鼠君聞こえるかい?」

「ああ、聞いていたよ。今王都の鼠達に、フレンの無事を確認して貰っている。もう少し待って居て。」

「分かった。僕達は今から王都の外れに向かうよ。」

「分かった。じゃぁ後で落ち合おう。」

「頼んだよ。」

「お兄ちゃん、今誰と話していたの?」

「ん~~! 鼠君だよ。コンタと僕の秘密だよ。」

「うん、分かった。お兄ちゃんと二人の秘密だね。」

 そう、話しながら進んで居ると、烏が大きく鳴いた。

「分かったのかい?」

「そのまま進むと、王都の外れに出る。其処迄行くと、俺達が居るから分かるよ。」

「分かった。フレンを守って欲しい。」

「ああ、今回は蛇たちと鷲が参戦している。任せてくれ。」

「それじゃぁ、頼んだよ。」

 烏は一回鳴くと、飛んで行ってしまった。

「今も鼠君と話していたの?」

「イヤ、今度はカラスくんとだよ。」

「此れも秘密?」

「そうだよ、守れるかい。」

「うん。僕誰にも言わないよ。」

「コラン、君はお利口だね。それじゃぁ少しだけ急ごうか。」

「うん。」

 王都の外れ迄来た所、大きな鷲が数匹木の上に居るのが見えた。

 急いで近づくと、数人の男達が塊りになり十数匹は居るだろうか、鎌首を持ち上げた蛇達に囲まれ、一歩も動けなくなっていた。

 この状況は、流石に僕でも怖いかも知れない。


 フレンさんの護衛は鼠達がしっかりと努めてくれていた。

 幸い、フレンさんには危害が加えられた様子は無かったが、多くの鼠達に囲まれ、少し怯えていたようだった。


 フレンさんに気が付き、慌てて走って来た、コランとコンタに気付いたフレンさんは安心したのか、泣きながら三人で抱き合って喜んでいた。

 その後不届き者達は、後ろから追って来たデイトス様の警備兵により王都の衛兵に引き渡されたのだった。


 あんなに居た動物達は全て姿を隠し、何事も無かったかのような静けさを取り戻して居た。

「あの日の僕の不注意から、こんな事になってしまい、申し訳ありませんでした。」

「いえ、命の恩人で有る、グレン君に、恩を仇で返す様な事になってしまい、申し訳なく思って居ます。すいませんでした。」と三人は僕に頭を下げてくれた。


 命を掛けてでも、僕との約束を守る。こんな人達になら僕の全てを話せる。そう思った時、彼を僕の従者にしたいと思った。

「所で、お話が変わるのですが、宜しいでしょうか?」

「何でしょうか?」

「コランさんはお店をしているようですが、算術はお得意ですか?」

「はい、今は、市場の片隅で商売をしていますが、一年位前までは、先程皆さんが居られた、店の隣で、室内装飾品の店を主として切盛りしていたので、算術は得意です。」

「そうでしたか、私はこの王都には住んでいないのです。前回と、今回、たまたまこの王都に、此方の、デイトス・ソラン公爵様達のお供で、この王都に来ていただけなのです。」

「え……‼ 公爵様だったのですか? 皆さま、ご無礼なお願いをしてしまい、申し訳ありませんでした。」 と、又三人は皆さまに向かって膝を付き頭を下げた。

「気にしなくていいですよ。我々もどちらかと言うと、グレンに助けられて居るんですから。」 そう、デイトス様はコランさんに答えてくれた。

 他の方々皆さんは、微笑みながら頷いていた。


「それより、皆さん、王都を離れて僕と一緒に来て頂く事は出来ませんか?」

「それは…? どういう事でしょうか?」

「僕もまだ、実感は無いのですが、数日前、国王様より、グレン・ファステール辺境伯と言う名前と領地を頂いたんです。」

「グ、グレン君、いや、グレン様は辺境伯様だったのですか?」とコランさん達は、今度は僕に膝を付け頭を下げた。

「いや、皆さん立って下さい。僕自身、まだ自覚が無いんですから。お願いします。」

「では、私共に言った、先程の言葉の意味を教えて頂けますか?」

「はい、僕は今言った通り、新米の辺境伯です。今から、自分がその人を信じ、自分の全てを任せ、傍で助けてくれる人を捜さなくてはなりません。二年間の間は、此方のソラン公爵様の御父上が、辺境伯として育てて下さいます。が、その間にも僕は、領地運営や領民の置かれた状況やその変化などの学習で、恐らく一杯一杯になるでしょう。それを、一緒に学びサポートしてくれる、そして何よりも、領民に信じられる人が必要なのです。」


「お話は分かりました。ですが、私達はグレン様とお会いしてまだ二回なのです。それなのにどうして我々にお声を掛けて頂けるのでしょうか???」

「僕の事は、グレンでいいですよ。私は元々、ドラン辺境伯領のアシャン村で、親に捨てられて、鍛冶屋で奉公していたのですが、その鍛冶屋からもタダ飯食らいの役立たずだと、追い出されてしまった。ただの平民。それが僕です。

あなた達に声を掛けさせて頂いたのは、僕が、あの日、あの種は売ってはいけない、出来れば、庭先や王都の外れにある裏山に撒いて欲しいと言った言葉を守り、自分達の命が脅かされて居たにも関わらずに、恐らく普通であれば、自分達の命が脅かされれば、持っている種を全て渡してしまい、これは仕方が無い、自分達の命には代えられない。と思うと思うのです。それなのにあなた達は、そうせずに僕との約束を守ろうとしてくれました。これ以上、あなた達の信用に値する言葉を僕は知りません。」


「私達をそんな風に言って頂き、ありがとうございます。」

「今夜、此処での用事が全て終わり、明日僕はこの王都を離れます。今夜一晩、皆さんで話し合って決めて頂いて構いません。皆さんにお越し頂く予定の領地は、以前ソラン様が治めていたソラン辺境伯領です。

「ソラン辺境伯領⁉ と言うと、ドラゴンが守る場所と言われている場所ですね。」

「そうなのですか?」

「ああ、昔からそう、言い伝えられて居る。が、誰も見たことが無いんだ。」

「知りませんでした。」

「そうだな、グレンに教えて居なかったからな。」


「では、グレンそろそろ、帰ろうか?」

「はい。では皆さん、明日もう一度、お返事を聞きにお店に伺わせて頂きます。」

「はい。話合って置きます。」

「では、失礼します。」

 そう言うと、ソラン公爵様達とお屋敷に向けて帰路に着いた。



 お屋敷に着くと、夕食の準備が整っていた。

 皆さんと美味しく、食事を済ませ、歓談のひと時を済ませると、自分の部屋に帰り、仮眠する事にした。

 目が覚めると、皆さんはもう寝静まっていた。

 鼠の案内で、地下通路からデイトス様のお部屋を訪ね、扉をノックすると、鍵が開く音がしてデイトス様がお顔を出すと、そのまま僕達に付いて来てくれた。

 辺境伯領の時と同様で、鼠が途中で止まると、デイトス様が鍵を開け中に入ると、真直ぐ奥に向かって通路が続いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る