第10話
僕は直ぐに布団を剥がすと、身体全体に両手を翳していると、魔力が注ぎ込まれていっている事が分かった。
暫くすると、まず心臓の部分に淡い光が見え、やがてその光は彼の身体全体を優しく包み込んで行き、暫くすると、彼の目が薄らと開き、僕を捕えると、その目は大きく見開かれ、やがて口から声が漏れた。
「き・み・は・だ・れ?」
「僕は……。」と言いかけた時、
「そうか、僕は漸く死ねたんだね。」と、とても弱々しい声でゆっくりと喋った。
「違うよ、君は生きているよ。」
「え‥!? 僕は生きて居るの。」
「もうすぐ動ける様になるから、ちょっと待って居てね。」
やがて、かれを包み込んでいた淡い光が消えて行くと、彼の指が動き、手を動かす事が出来る様になった、さらに少し待って居ると、起き上がろうとするので、少し手伝ってあげた。その頃、向こうの部屋から、男達の騒ぐ声が聞こえて来た。
「「「わ~~~~。助けてくれ~~~~~。いたい、痛い痛い。なんだこの鼠達は~。いたい、痛いこのやろ~~~~~。痛い、痛い、噛むな、噛まないでくれ~~~。」
「そろそろ始まったようだね。」
「どうしたの、何が始まったんだい? そうだ私はケリー。きみは誰なんだ?」
「名乗るのが遅れてすいません。私はソラン辺境伯邸でお世話になっているグレンと言います。宜しくお願い致します。」
「そうか、ソラン辺境伯邸のグレン君だね。此方こそ私を助けて頂き、ありがとう。お礼を言います。」
「少し動けそうですか?」
「ああ、やってみ…‼ 動ける、動けるよ。立ち上がって見よう。 助けて貰えるかい?」
「はい。では…!?」と、手を差し出そうとしたら、ケリーは大丈夫だと手を遮った。
「ゴメン、自分でやって見る。動けそうな気がする。」
「はい。では、危なそうな時だけ助けますね。」
「すまない。頼む。」
その後ケリーは、自分自信の力で立ち上がると、扉に向かって歩き出した。
そのまま廊下に出ると、男達の騒ぐ応接間に向かって、ゆっくりだが、しっかりと歩いて行った。
部屋の中では、ケイト様を、襲おうとした男達に、多くの鼠が噛みつき、男達は所狭しと必死に、鼠達から逃げ回っていた。
一方ドロミテ様は、鼠達に包囲され部屋の片隅で動けなくなっていた。
部屋の中に入り、その様子を見たケリーは、直ぐに何が起こったのか理解したらしく、父親のドロミテ様に向かって、
「父上此れはいったい、ケイト辺境伯様に何をなさろうとしていたのですか?」
「ケリー…⁈ ケリー、お前は何時の間に動ける様になったんだ?」
ドロミテ様はケリーに走り寄ると、彼をその手に抱きしめ、涙を流した。
「ケイト辺境伯様が私の病気を治すために、グレン君を連れて来てくれたのですよ。そして彼が私の病を治してくれたのです。それを父上、貴方と言う人は…⁉」
「そうだったのか…‼ すまなかった。詫びて済む事ではないが、ケイト辺境伯、改めて息子ケリーを助けて頂いた事に感謝申し上げる。それと、今迄の非礼をお詫び申し上げます。」と床に座り、頭を下げた。
そして私にも、頭を下ると、「グレン君、息子ケリーを病から救って頂き感謝申し上げる。」とまた、頭を下げた。
いつの間にか、沢山いた鼠は何処かに消えて居なくなっていた。
その後暗殺者達はドロミテ様の私兵に縛られ、ソラン辺境伯邸に連行された。
そして彼等は、此処でも多くの鼠達に囲まれると、バーム卿の企みを全て喋り、調書を作成されると、王都の衛兵に引き渡された。
翌日ドロミテ卿と息子ケリーは、ソラン領主邸を訪れると、ケイト元領主ご夫妻とデイトス現領主ご夫妻に今迄の非礼を謝罪すると、此れから王都の貴族を巻き込んだ、水面下で行おうとしていた計画を全てしたためた自白書と、謝罪文を持って来ていた。
自身への処罰は、息子ケリーの体調を見ながらだが、当主教育が終了する二年後に嫁を迎え当主として家督を譲り、自信は隠居するとしたためられていた。
ドロミテ卿親子が帰った後、ソラン領主様達がお揃いで、厩を訪ねて来られ、数十枚にもなる、報告書?見せて頂いた。
謝罪文には、跡継ぎであるケリー君の病の発症後から、子爵家当主としての立場、ケリー君の父親としての心の鬩ぎ合いが手に取るように書かれていた。そして、その心の弱さが招いた今回の事態を事細かく書かれていた。
最後に、ジェシー様と今は亡き娘スージー様への謝罪で締め括られていた。
ドロミテ卿がソラン辺境伯様一家とお話の間、ケリー君は厩に僕を訪ねてくれ、 二人でゆっくり話した。この時、今は体調は万全で、食事がこんなに美味しい物だとは思わなかった。と笑っていた。そして、
「後は死ぬだけだった私を助けてくれてありがとう。妹のスージーの分までしっかり生きるよ。此れからは友達として話し相手になってくれると嬉しい。」
「私で良ければ、此れからも宜しくお願いします。」
「ありがとう。」
そう話した後、迎えに来た父親と一緒に帰って行った。
♢ ♢
その翌日リバーは領主様の指示通り、領地の調査と視察を終え帰って来た。
報告書十数枚と、村々からの陳情書数枚を携えていた。
「デイトス様、今帰りました。此方が報告書と、村々からの陳情書です。」
「お帰り、大変な仕事ご苦労様でした。私は、今からこの報告書に目を通して置くから、リバー、君は今から自宅に帰り疲れを取ってくれ。明日は休みにするから、ゆっくりするといい。聞きたい事や遣らなければならない事を、それまでに整理して置くよ。」
「分りました。ではこれで辞させて頂きます。」
「ああ、おやすみ。」
「失礼します。」
リバーはそのまま、屋敷に帰って行った。が、その一時間後には、領主様の屋敷に戻って来て居た。
「ケイト様少しお時間を頂いて宜しいでしょうか?」と、元領主ケイト・ソラン伯爵を訪ねていた。
「リバーかい、デイトスに聞いていたよ。領地視察に行っていたんだって? お帰り疲れただろう。 所で、そんなに慌ててどうしたんだ。」
「先程帰って参りました。報告書をお渡しすると、お暇をデイトス様に頂き、自宅に帰ったのです。所が、私が留守の間にケイト様御夫妻がグレン君を伴い、私の母と妻の病をグレン君に治して頂いたと聞きました。ほんとうにありがとうございました。母も妻もとても喜んでいました。」
「君の留守中にグレン君と妻と一緒に勝手にお邪魔してすまなかった。只、君が領地視察に出た翌日だったか? 奥方を市場で見かけた者が病気ではないかと心配して伝えて来れたんだ。それで、君の留守中に奥方に何か遭ってはいけないだろう。それで、気になって訪ねさせていただいた。と、言う訳なんだ。気を悪くしないでくれると助かるんだが?」
「そうだったのですね。ありがとうございました。そして私の計画もお知りになったのではないですか」
「そうだね、計画自体は知らないが、奥方が心配していたんだが、少々不味い物を見せて頂いたよ。あれは、何のために持っていたんだい。」
「あの薬品はバーム卿に戴きました。ケイト様暗殺に使う様にと。」
「まだ、使う意思はあるのかな?」
「いえ、母と、妻の命の恩人に、私が殺されようとも二度と使うつもりはありません。」
「分った。その言葉だけで十分だ。今後も、私とデイトスに仕えてくれるかい?」
「え!宜しいんですか?」
「構わんよ。君は優秀だ、領民に人望もある。だが、次にしたら許さんよ。」
「ありがとうございます。心を入れ替えて務めさせて頂きます。」
「それじゃあ、頼んだよ。早く帰って、母上や奥方を安心させてあげるが良い。」
「ありがとうございます。それでは、失礼させて頂きます。」
その後リバーは厩を訪れ、グレンに、自分の母親と、妻の病気を治して貰った事のお礼と、今迄の非礼を詫びて、母親と妻の待つ屋敷に帰って行った。
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