第14話 辺境伯の娘、変装する

 馬屋に立ち寄り、とびきり足が速くて、体力のある馬を三頭買い上げた。返すことはできないから。途中の領地で馬屋があれば、乗り継いでサーラスティまで行くことにしている。


「リクハルド様、この格好では目立つと思うので、平民の衣装に着替えましょう」

 私が提案すると、二人とも少し驚いた顔をした。


「変装か。思いつかなかったが、その方が絶対にいいな」

 リクハルド様は乗り乗りで、衣装店に向かった。

 ただ平民の服を着るだけじゃなくて、設定も考えた。

 私とレイヤ先生は地方の商人の異母姉妹、王都にある親戚宅に来ていた。

 リクハルド様は私たちが道中で雇った傭兵。


「リクハルド様は似合いませんねえ」

 上から下までリクハルド様を見つめて、私は溜め息をこぼした。

 リクハルド様は中古の平民服の上に皮の胸当てをつけ、剣を佩いている。

 でも、輝くような気品があるのは、さすが。


「クリスタ嬢は、驚くほど似合っているな」

「ふふん。そうでしょ」

 サーラスティにいた頃は平民の服を着て、領民と遊んだり畑を手伝ったりしていたから、自慢じゃないけど似合う自信があった。


 レイヤ先生も姿勢が良いから、少し違和感はあるけど、こんな人もいそうというレベルで、なんとかなっている。


「リクハルド様、これを頭から羽織ってください」

 溢れる気品を目立たせないために、色褪せたカーキの外套を着てもらい、フードも被ってもらった。

 私たちも女性物の外套を羽織る。

 道中で必要な物は鞄を買って入れ、分担して持ち、馬車は使わないので、売った。


「レイヤ殿はどうする? 行く当てはあるのか」

 準備が整い、門に向かおうとしたとき、リクハルド様が先生に訊ねた。私は先生も一緒に行くのだと思い込んでいた。


「行く当てはなく、どうしたものかと思案しております」

「実家はラヴィラだったか」

「はい。お恥ずかしい話ですが、実家とは関係があまり良くないので、戻りにくいのです」

 レイヤ先生が顎に手を当て、困った様子を見せる。


「先生もサーラスティに一緒に行きませんか? 辺境ですけれど、良い所ですよ」

 私が誘うと、先生は迷いながらも、ほっとした顔をした。


「ご迷惑でないですか」

「私の先生だと言うと、父は歓迎してくれるはずです」

「では、お世話にならせていただきます。あちらに宿があれば、そちらに泊まりますので」

「うちに泊まらないんですか? 部屋ならたくさんあるので、平気ですよ」


 私がぜひどうぞと圧を込めると、

「では、辺境伯様のご了承が得られれば、お願いいたします」

 先生は頷いてくれた。


 街中では馬を曳き、城門に向かうと、兵士たちが馬車を止め、中を検めていた。止められていたのは、貴族が乗るような立派な馬車だった。

「叔父上が手を回したのだろうな」

 リクハルド様が小さく呟く。


「他の門に向かっても同じだろう。最悪の場合、強行突破する。いつでも馬に乗る心構えをしておいてくれ」

 緊張気味のリクハルド様の言葉に、私は頷く。


 業者や農民たちに紛れて、兵士たちの横を通り過ぎた。

「そこの女、待て」

 兵士に呼び止められ、どきっとする。


 ゆっくり振り返ると、別の女性の靴紐がほどけていて、兵士が危ないぞと注意をしてあげていた。

 ほっと内心で息をつき、前に進む。


 馬車から「わたしは領地に帰るだけだ。いったい誰を探しているんだ。早くしろ」とイライラしている男性の声が聞こえた。


 その後、ヒヤリとすることなく、無事に城門から外に出られた。陽の光がなんだか眩しい。


「よし、抜けられたな。ここからは飛ばすぞ。馬に振り落とされないように気を付けてくれ」

 私たちは鞍にまたがり、馬の腹を蹴った。



次回→15話 辺境伯の娘、実家に保護を求める


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