第29話 幼馴染と修学旅行 二日目⑦
「実はここって京都でも有名な告白スポットなんだって」
――と、幼馴染に言われた直後のことだった。
急に何かに腕を引っ張られて、声を上げる間もなく来た道を戻らされる。
何やら真剣な面持ちの夏帆は自分の世界に没頭しているのか、俺の状況には気付かなかったようだ。
ついに神隠しにでも巻き込まれてかと焦ったが、どうやらそういった超次元的な存在の類ではないらしい。
というのも、俺の腕を引っ張っているのは、どこからどう見ても同じ高校の制服を着た女の子だからだ。
女の子に腕を引っ張られるなんて贅沢なシチュエーションだと思ったのも束の間、その横顔に見覚えがあることに気が付いた。
「北条さん?」
彼女の名前は北条さん。
クラスのみんなでショッピングモールに買い物に行った時に、俺に「修学旅行の二日目、一緒にどこか行っちゃわない?」と声をかけてくれた女子だ。
「きゅ、急にごめんねっ。葵くん」
夏帆がちょうど見えなくなるカーブのあたりで立ち止まった北条さんは、手を合わせながら謝ってくる。
その後ろには同じ班のメンバーと思しきクラスメイトの女子がもう二人、同じく申し訳なさそうに手を合わせていた。
「えっと、どういう状況なのかは分からないけど、みんなも竹林の小径に来てたのか。俺たちの班もなんだが、奇遇だな」
「そ、そうだねっ。あっ、もしよかったら奇遇ついでに私たちと一緒に見て回らない?」
北条さんが名案を思いついたとばかりにパッと表情を明るくさせて、そんなことを提案してくる。
正直まったく心が動かないわけではないが、幼馴染に「自由時間だからって勝手にどっか行ったりしたら駄目だからね?」と修学旅行以前から念押しされていることを考えると、いつまでも北条さんたちと一緒にいるわけにはいかない。
「悪いんだが――」
せっかく声をかけてくれたのはありがたいが、やはり約束は守るべきだろう。
断って夏帆のもとに戻ろうとした俺を、北条さんが腕を掴んだまま離さない。
「ほ、ほんとにもう少しだけでいいからさっ。ねっ?」
「そ、そうだよっ!」
「私たちと一緒にまわろっ」
やけに引き止めようとしてくる北条さんと、その他女子。
まるでハーレムのようなラブコメ的展開に、俺も大いに心を動かされる。
それに、以前に同じ班に誘ってくれた時のような、夏帆に対する悪意のようなものも感じられない。
ここまで求められているのに少しも歩み寄らないというのは、男としていかがなものだろう。
いや、決して女の子三人ときゃっきゃしながら回りたいとかの下心があるわけではなく、あくまでも一般論としての話だ。
ただ俺は映画村の忍者劇の一件で、幼馴染の機嫌を損ねたばかりだ。
今は調子を取り戻してご機嫌な様子だったが、俺が別の女の子にうつつを抜かしていたことがバレたら、今度こそ本気で怒られてしまうかもしれない。
俺としてもハーレムはとても魅力だが、さすがに自分の命が惜しい。
「せっかくだけど、夏帆も待ってるだろうし戻るよ。……って、誰だ?」
そう言って何とか女子たちから抜け出す俺だったが、竹の合間に見える夏帆の姿以外に誰かが立っていることに気が付いた。
声をかけるつもりが、何となくそうすべきではないように思えて立ち止まる。
「あっちゃ─……見られちゃったか……」
後ろから追いかけてきた北条さんが、しまったとばかりの声色で呟く。
他二人の女子も同様の反応に、何となく状況を察する。
「もしかして……告白か?」
「……バレちゃったら仕方ないね。そ、告白。うちの班の男子が浅葱さんのこと好きなんだって。だから協力してあげようとしてたんだけど」
申し訳なさそうに状況を説明してくれる北条さん。
そういえば確か夏帆も、ここが有名な告白スポットだとか話していた。
告白している男子も、もしかしたらそれを知った上で事に臨んだのかもしれない。
しかし――。
「それを早く言えよっ!」
「えっ……」
予想外の展開に、俺は万が一にも姿が見られないように腰を低くする。
もちろん他の面々も同様に指示した上で、二人の様子を遠目に窺う。
そんな俺の行動を、北条さんたちが不審そうに見てくる。
「じゃ、邪魔しないの? だから私たち告白の間だけでも葵くんを浅葱さんから離そうとしてたんだけど」
「なんで俺が邪魔する前提なんだ」
「だ、だって二人ってめっちゃ仲良いし」
「そりゃあ幼馴染だからな」
「て、てっきり隠れて付き合ってたり、もしくは片思いとかしてるのかなって」
「なんでそうなるんだよ。あいつとはそういう関係じゃないって話したよな?」
それでも北条さんたちは納得できないようで、「本当は付き合ってるんでしょ」という疑いの眼差しを向けてくる。
「あのなあ、もし仮に俺が幼馴染のことを好きで告白を邪魔するような奴だとしたら、夏帆に対する告白はもっと少ないと思うんだが?」
「た、確かに。浅葱さん、教室でも告白されてたりするね……」
「だろ? むしろ俺としては、あいつに早く彼氏を作ってほしいくらいなんだ」
「そ、そうなの?」
意外に思われることの方が意外なのだが、少なからず誤解はとけたようで、北条さんたちはホッと胸を撫で下ろしている。
「二人って本当にただの幼馴染だったんだね」
「俺と夏帆じゃ釣り合わんだろ」
「まあ、確かにそうかも?」
「おい、そこは少しくらい否定してくれ」
「仕方ないじゃん。浅葱さん、可愛すぎるんだもん。私が好きだった男子も浅葱さんのこと好きって言っててムカついたし」
だから幼馴染に対する敵対心のようなものを感じたのか、と納得した。
「でも、そうと知ってたら最初から葵くんに相談すればよかったね」
「ほんとな。北条さんたちがわざわざ協力するってことは悪い奴じゃないんだろ?」
「……そうだね、良い奴だよ」
「もしかして北条さんが好きだったのって」
「ノンデリ発言禁止」
北条さんが背中を軽くパンチしてくる。
確かに今のはノンデリだったかもしれないが、そうなると少し不思議だ。
「俺的には、そんな男の告白を手伝ってる北条さんの方が謎なんだが」
「……仕方ないじゃん。好きな人に頼まれたら」
「え、可愛い」
「なにを今更」
「すまん、正直もっと性格悪いのかと思ってたから」
北条さんが再びパンチしてくる。
後ろの女子がふふっと笑っているあたり、この子達も同じように思っていたのかもしれない。
「でもまあ、見た目だとさすがに夏帆が圧倒的か」
「そ、そんなこと無いし! ……って言いたいところだけど、浅葱さん相手じゃ確かに見劣りしちゃうかもね」
「気にすんな、夏帆が反則なんだ。あいつと付き合うなら、見た目とかじゃなくて中身で勝負するしかないからな。だから頑張ってくれ……!」
「ほ、本当に応援してるんだね。……でも、どうして浅葱さんに彼氏ができて欲しいの?」
二人の成り行きを見守る俺に、北条さんが遠慮がちに聞いてくる。
しかし、それはあまりにも簡単な質問で、振り返るまでもなく笑って答える。
「そりゃあ、幼馴染には幸せになって欲しいからな」
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