第28話 幼馴染と修学旅行 二日目⑥


「いつまで浮かれてるつもり?」


 ――と、親友に呆れられたのは映画村を出たあと。

 次の目的地である竹林の小径こみちに向っているバスの中でのことだった。


「だ、だって葵がー……」

「はいはい、惚気はもういいから」

「ちょっとくらい付き合ってよぉ」


 隣の席に座る梓はうんざりした表情を浮かべつつも溜息をこぼす。

 やはり持つべきは親友である。


 それにしても、忍者劇の時の幼馴染はあまりにもかっこよすぎた。

 本人は平謝りだったが、私としては修学旅行の中でもトップクラスに良い思い出になったと思う。


 ただ、あの時の幼馴染をビデオにでも撮っておければもっと最高だった。

 スマホのアルバムでお気に入りに設定するだけでなく、絶対に消えたりしないよう厳重に管理していたことだろう。


 ちなみにレンタルしていた着物を返す前に、みんなで写真撮影をした。

 その時になんと葵が「二人で撮らないか?」と提案してくれて、念願だったツーショットを手に入れることもできた。

 もちろんその写真は既にお気に入り登録を済ませている。


 唯一の問題は、幼馴染の顔を見ることが出来ないということくらいだろうか。

 いま葵の顔を見たら、映画村でのことを思い出して絶対ににやけてしまう自信がある。


「そういえば、映画村で葵と何話してたの?」


 忍者劇の後、私の隣を歩いていた梓が葵に近づくシーンがあった。

 何やらこそこそと耳打ちしているようだったが、離れていたこともあって何を言っていたのかは分からなかった。


「んー……内緒」

「えー、教えてよー」


 しかし、梓は口を閉ざして幼馴染との会話の内容は教えてくれる気配がない。

 普段なら聞けば大抵のことには答えてくれるのに、なぜ今回に限ってだけ教えてくれないのか少し気になる。

 とはいえ、言いたくないことを無理やり話させるのもどうかと思ったので、一旦は追求しすぎないことにする。


 目的地である竹林の小径に着くのは、夕方五時ごろ。

 ホテルに帰るまでの時間を考えたら、居られるのは一時間くらいしかない。

 観光を楽しみたい気持ちも大いにあるが、それ以上に私にはやるべきことがある。


「するんだよね、告白」

「……うん、するよ」


 梓の少し遠慮がちな問いに、ゆっくりと頷く。

 これまで散々はぐらかしたり誤魔化したりしてきたが、いい加減そろそろ決着をつけなければならない。


 修学旅行中に告白を決行することは事前に梓にも相談していた。

 だからこそ自由時間の最後に、京都でも指折りの告白スポットである「竹林の小径」を持ってくることができたのだ。


「いけそう?」

「んー……分かんない。でも頑張るよ、最後かもしれないから」

「……ちゃんとお願いするんだよ?」

「うー……緊張する……」


 応援してくれる親友に再び抱きつき、少しでも勇気をもらう。

 梓にも言った通り、告白をやめるつもりはない。


 ただ、やっぱり不安は大いにある。

 だって、この告白が成功しようと失敗しようと、私たちはただの幼馴染ではなくなるのだから。


 ◇


 バス移動も終わり、私たちは竹林の小径に到着した。

 夕方ということもあってか、観光客はそこまで多くはない。


 意外なのは、私たちと同じ制服の生徒たちが何組かいるということだ。

 この場所が魅力に魅力がないというわけでは決してなく、他にも名所がある中でこの場所を選んでいることが少し不思議だった。

 もしかしたら、私と同じような理由の子もいたりするのかもしれない。


 とはいえ、少し傾き始めた太陽に照らされる竹林は、何とも形容しがたい独特な雰囲気に包まれている。

 茜色の光が竹の合間を縫うように線となって、足元を仄かに照らしていた。

 まさに告白するのにぴったりな場所と言えるだろう。


「竹林って初めて見たけど、こんな綺麗なんだな」

「わかる。癒されるっていうか、不思議な場所だよね」


 隣で感動しているのは、幼馴染の葵。

 さっきまでは緊張して梓の隣に逃げていたが、これから告白しようというのに離れているわけにもいかず、何とか幼馴染の隣に戻ってきたのだ。


「この場所って確か他の女子から教えてもらったんだったよな?」

「うん、クラスの子から教えてもらったの」


 ──というのは嘘である。

 本当は自分で京都の告白スポットを調べて、一番いいと思った場所を選んだ。

 ずっと前から、ここで告白することは決めていたのだ。


「三浦たち、随分早いな」

「さ、笹木くんあたりが梓を連れ回してるのかな? まあ一本道だし、歩いてるうちに追いつくんじゃない? 私たちはもう少しゆっくり歩こ?」

「……そうだな。せっかく綺麗なんだし、のんびり楽しむのも悪くないだろ」


 ──それも嘘である。

 私がこれから告白することを知っている梓が、気を利かせて笹木くんを引っ張っていってくれたのだ。


 この状況のほとんどは、嘘でできている。

 幼馴染がそれを知ったら、一体どんな反応をするだろうか。


「……彼女さんは、相変わらず忙しそうなの?」

「そ、そうだな。結構忙しいみたいだ」

「いい加減、写真くらい見せてくれてもいいのに」

「だから無いんだって」


 修学旅行が終わるあたりまでは忙しいという幼馴染の彼女。

 付き合いたてのはずなのに、それらしいことをしている様子がまるで無いのは、彼女としての余裕というやつなのだろうか。


「実はここって京都でも有名な告白スポットなんだって。もしこんな場所に二人でいることがバレたら、彼女さんになんて思われちゃうかな?」

「……べ、別に、幼馴染と二人で歩いてるだけだろ」


 葵にとってはそうなのかもしれない。

 どこまで行っても、ただの幼馴染。


 葵に彼女がいる限り、私から行動を起こさない限り、今後もずっと幼馴染という関係値から抜け出せないまま時が流れるのだろう。

 でも、一度でも好きになってしまえば、そんな状況には耐えられない。


 告白すれば、何かは変わる。

 成功するのか、失敗してしまうのかはさておき、少なからず決着はつく。

 もちろん、出来ることなら成功させたいとは思っている。

 しかし、彼女がいる以上、その勝率が決して高くないことは分かりきっている。


 改めて、幼馴染の彼女が羨ましくて仕方がない。

 私のほうが絶対、先に好きだったのに。


 けど、私より先に行動を起こしたからこそ、彼女という立場にいられるのだろう。

 それでも考えてしまうのだ。

 もしかしたら今、彼氏彼女の関係で、この道を手を繋ぎながら歩いていたのかもしれないと。


 だからこそ、この関係を終わらせる。

 ただの幼馴染じゃなくなるために。


「葵……っ!」


 意を決して、隣に顔を向ける。


「えっ……」


 なのに、そこに葵の姿は無かった。

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