第19話 幼馴染と修学旅行 初日①


「期待してて!」


 ――と幼馴染に言われた修学旅行をついに迎えた当日の朝。

 今日から二泊三日の京都観光ということで、生徒たちは大いに盛り上がりを見せている。

 かく言う俺も、その一人だ。


 天気も快晴で、絶好の修学旅行日和。

 俺たちは今、新幹線で京都を目指しているところだった。

 あと二時間もすれば、目的地の京都までたどり着いているだろう。


「晴れてよかったね」

「ほんとだよっ! 私なんかこの一週間、天気予報アプリから目が離せなかったんだから!」


 三浦の言葉に、夏帆がうんうんと頷いている。

 まさか幼馴染が俺と全く同じ行動をしていたとは。

 思わず吹き出しそうになるが、不審に思われそうだったので何とか耐える。

 もしかしたら根本的な行動原理が似ていたりするのだろうか。

 何はともあれ、修学旅行の二泊三日の間は快晴が続きそうなので安心だ。


 新幹線の席はクラスごとに分けられており、その中でなら割と自由な移動を許されている。

 向かい合う四人席に俺と雅也が隣り合って座り、対面に夏帆と三浦が座っている。

 特に誰かが指示したわけでもないが、基本的にはどこも同じ班のメンバーで固まって座っているところがほとんどだ。


 楽しそうに談笑するグループ、持ってきていたお菓子の袋を開けて皆でシェアしているグループ。

 担任の女教師ちゃんも生徒たちに混ざって楽しんでいる。

 そんな和気あいあいとしている雰囲気の中、俺たちだけは少しだけ様子が違っていた。


「ほら、早く引きなさいよ」

「まあ待てって。焦らせるなよ」


 俺たちの班は持ってきたトランプでババ抜きをしている真っ最中である。

 ビリだったやつは一位だったやつの言うことを京都で聞くという罰ゲームもあるため、比較的真面目に対戦している。


 ちなみに現時点で三浦が一位抜け、雅也が二位抜けしており、残るは俺と夏帆のビリ争いのみとなっていた。

 他の班グループとは異なり、妙な緊張感が漂っている。


「葵がこういうの弱いのは知ってたけど、夏帆ちゃんも苦手だったんだねぇ」

「夏帆は分かりやすいから。梅原は論外」


 外野の二人が何やら失礼なことを言ってきている。

 夏帆はともかく、俺はポーカーフェイスには自信があるつもりだ。

 雅也たちを無視して、差し出された残り二枚の内の一枚を引く。


「うげっ」


 引いたのは、なんとババだった。


「葵、ババ引いたのバレバレすぎ」

「ババ抜きの戦い方知ってる?」

「う、うるせー。どうせ相手にはバレてるんだから良いんだよ」


 ババを引いて思わず反応してしまったが、二人しか残っていないのであればババを持っていることがバレようが関係ない。

 俺は、二枚のカードを誰からも見えないように隠しながら適当にシャッフルしてから夏帆の前に差し出す。

 幼馴染は真剣な眼差しで二枚のカードを交互に見比べ、ババがどちらかを見極めようと無駄な努力をしている。


「ど、どっちがおすすめ?」

「……左、かな」

「それってこっちから見て? それともそっちから見て?」

「俺から見て、左だな」


 もちろん、左がババである。

 この真剣勝負のタイミングで、まさか正直に言うやつはいないだろう。


「し、信じていいんだよね?」

「ああ、俺は嘘はつかないタイプなんだ」


 口から出まかせである。

 そんな俺の内心を多少なりとも感じ取ったのか、夏帆は未だに二枚のカードと睨めっこしている。


「……嘘だったら彼女と別れる?」

「そ、それは話が飛躍しすぎだろ」


 突然の一言に思わず声が裏返る。

 しかし、夏帆は悩んだ末に、俺がおすすめした通りの左のカードを引く。


「ババじゃないの! 嘘つかないって言ってたのに!」

「騙されるやつが悪い」

「今のは夏帆が悪いかもね」


 三浦からの追撃もあり、夏帆は「うぅ~!」と悔しそうな表情を浮かべている。

 卑怯な手は使ったが、今度は俺が幼馴染から引く番だ。

 さっきは失敗してしまったが、今度こそあがらせてもらう。


「ちなみにおすすめはどっちだ?」

「そっちから見て右ね」


 夏帆の言葉に、ニヤリと笑う。

 この土壇場で嘘をつかないわけがない、と俺から見てを選択する。


「うげっ」


 なんとババだった。


「人を疑うからそうなるのよ」

「裏の裏をかかれたか……」

「たぶん普通に表だったと思うけどね」


 雅也と三浦が何やら呆れたものを見るような目を向けてきているのを、ひしひしと感じる。


「夏帆はもう少し人を疑った方が良いと思う」

「葵はもう少し人を信じてあげた方がいいんじゃないかな?」


 雅也たちがそんなことを言っているが、この真剣勝負の場で人を疑わなければ逆に一体いつ疑えばいいというのか。

 さっきまでは少し調子が悪かっただけである。


 俺は再び二枚のカードをシャッフルし、幼馴染の目の前に差し出す。


「おすすめは、俺から見て左だ」


 もちろん、左がババである。

 裏の裏の、さらに裏をかいた作戦だ。

 まさか先程と同じように嘘をついているとは思うまい。


「こ、今度こそ本当?」

「あぁ、俺は今まで嘘はついたことがない」

「さっき嘘ついてたじゃない!」

「さっきのは左と右を間違えただけだ。左右盲ってやつだ」

「ほ、ほんとに? 信じていい?」

「任せろ」


 俺の言葉に、夏帆が「わかった!」と頷いて左のババを引いていく。

 なんと間抜けなやつなのだろうか、と思わずほくそ笑む。

 自分が引いたカードがババだと分かった途端、夏帆は恨めしそうにこちらを睨みつけてくる。


「う、嘘つきっ!」

「すまん、左右盲だ。ちなみに次のおすすめはどっちだ?」

「……み、右」

「それは俺から見て右だよな?」


 夏帆はさっきも正直に答えていたので、今度もきっと正直に話しているのだろう。

 ――と、普通の奴ならば思うだろう。


 だがしかし、俺は違う。

 裏の裏の裏の――もうよく分からないが、とにかく幼馴染のおすすめとは逆のカードを引きに行く。


「うげっ」


 ババだった。


「……これって、決着つくのかな?」


 雅也の気まずそうな声が俺たちの席に響いた。

 京都まで、あと二時間弱。



――――――――――――――――――

◇あとがき◇


読んでいただきありがとうございます!

遂に、修学旅行がスタートしました!(といっても移動ですが……)


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