第17話 幼馴染に連れられて
「忘れられない修学旅行にしてあげるから、覚悟しておきなさいよっ!」
――と言われたが、いったい何をされてしまうのか不安だ。
その傍若無人ぶりに今まで何度も恐れをなしてきたが、本人から面と向かって「覚悟しておけ」などと言われたことは一度もない。
特に深い意味もなく自然な流れで幼馴染と班を組むことになったが、もしかしなくても早計だっただろうか。
自分でも驚きなのだが、クラスメイトの女子グループ数組から一緒の班にならないかとお声がけもいただいていた。
あの時は勉強会の四人で班を組むと疑っていなかったため断ってしまったが、もう少し慎重に検討すべきだったかもしれない。
何はともあれ、無事に班決めも終わった。
クラスでは修学旅行に向けた本格的な準備を各々始めている。
修学旅行のスケジュールが今日のホームルームで担任から共有され、その内容に皆が期待に胸を膨らませていた。
大前提として、今回の修学旅行は二泊三日の京都観光である。
初日の午前中に新幹線で移動を済ませ、午後は全体で清水寺を観光するらしい。
その後は宿泊する旅館に向かい、初日の夜には肝試しも計画されてるとのこと。
二日目は自由行動、夜は旅館で花火など。
こうしてみるだけでも楽しそうなイベントが盛りだくさんの素敵なイベントだ。
個人的にはやはり清水寺あたりが気になる。
人生で京都に行ったことがないため、自分の中でどうしても京都っぽいものに対しての憧れが強く根付いている。
二日目の自由行動については基本的に班で動くことになるため、メンバーでどこに行くのか事前に話し合っておかなければならない。
どのくらいの自由度なのかというと、学校側から事前に指定された範囲内であれば、どこでも好きに行っていいらしい。
そうなればこちらも京都らしいところに行きたいが、こればっかりは夏帆や三浦あたりと相談して、なるべく全員の希望に近いところに行くのが良いだろう。
「…………」
そして今、俺たちはどういうわけかクラスメイトの大半を引き連れて、ショッピングモールに足を運んでいた。
わざわざ数えてはいないが、総勢で20名弱の大所帯である。
各々が修学旅行に向けて必要なものを買い出しに行くのは理解できるが、それにしてもこんな大所帯である必要は全く無かった。
ここまで来るまでも周りからの視線が痛かったし、何なら今もどこからか強い視線を感じる。
制服姿の高校生がこれだけ集まっていれば不思議がられるのは当然だろう。
この状況を生み出したのは、言わずもがな我が幼馴染さまである。
冗談かと思われるかもしれないが、うちの幼馴染はどうやらクラスの男子ほぼ全員から班のお誘いがあったらしい。
馬鹿な考えかもしれないが、そこまで来ると他のクラスからも誘いがあったりしていてもおかしくはない。
クラスが違えば班が組めるわけもないので、そんなことをするとしたら悪友の雅也くらいアホなやつに違いないのだが。
しかし、そんな男子たちの勇気あるお誘いも虚しく、幼馴染はタイミングよく開催されていた勉強会の4人で班を組むことを決めてしまった。
まあ、最終的には俺が「4人で組むんじゃないのか?」的なことを言ってしまったので、元凶が俺であるという考え方もできなくはないが、そんなことが他の男子に知られたら何をされるか分からない。
そうでなくとも俺と雅也は非難轟轟の状態だったので、せめて放課後の買い出しくらいは一緒に行くことになったのである。
先程まであんなに荒れていた男子たちは夏帆と三浦の周りで鼻の下を伸ばしきっている。
幼馴染の本当の姿を知らないからこそ、あんな幸せそうな表情ができるのだろう。
そんな男子たちに加えて、成り行きを見守っていたクラスの女子たちもついでに来ることになり、今の大所帯になってしまった。
唯一、運動系の部活組が参加できなかったことだけが唯一の救いかもしれない。
もしクラス全員が来るとなったら、さすがに何事かと思われていたことだろう。
「というか、そもそも何を買うつもりなんだ?」
ショッピングモールまで来ておいてなんだが、修学旅行に持っていかなければならないもの程度なら家の中で調達できるような気もする。
色々と準備が必要な女子ならともかく、男子陣はいったい何を買うのかと注視していると、なにやらカードゲームやボードゲームを漁っている者が多い。
きっと夜に旅館で遊ぶためのものなのだろうが、誰かしらが似たようなものを持っているだろうに、わざわざ新しく買うというところに熱意を感じれなくもない。
あとは単に、修学旅行という一大イベントに浮かれて財布の紐が緩んでいるかのどちらかだろう。
「葵くんは何も買わないの?」
店舗の外で待っていた俺に、不意にひとりの女子が声をかけてくる。
うちの幼馴染とは違うグループに属しているが、普通に可愛くてクラス内のカースト的にも高めな印象の子だ。
「ぶっちゃけ必要なものは家で揃うんだよな。わざわざ修学旅行のために新しいものを買うのも無駄だし」
「大人なんだね」
「俺もちょうどそう思ってた」
「そういうところは子供っぽいかな」
けらけらと笑う女子に、こちらも釣られて頬が緩む。
やはり楽しく話すなら、むさ苦しい男子どもより可愛い女の子に限る。
「でも酷いなぁ」
「なにが?」
「そりゃあ浅葱さんと班を組んじゃったことだよぉ。私が最初に声かけてたのに~」
「それはまあ悪かったと思ってる」
「ほんとかなぁ?」
信じられないかもしれないが、この女子が言ったことは嘘でも冗談でもない。
理由がどうあれ、こんな可愛い子が俺なんかを班に誘ってくれるとは思っていなかったので随分と驚かされたものだ。
結局は断ってしまったのだが、彼女は俺が夏帆と班を組んだことが不服らしく、可愛らしく頬をぷくぅーっと膨らませている。
やばい、鼻の下が伸び始めてしまいそうだ。
「ねえ、もし本当に悪いって思ってくれてるんだったらさ、修学旅行の二日目、一緒にどこか行っちゃわない?」
「二日目って自由時間の時ってことか? あれは班行動が基本だったと思うんだが」
「先輩たちに聞いたんだけど、実際は同じ班でも行きたい場所とか違ったら普通に分かれちゃうみたいだよ?」
「そ、そうなのか?」
「だからさ、よかったら二人で――」
女子が何かを言おうと口を開いた、その時だった。
「――――こんなところにいた!」
不意に大きな声が響いたかと思うと、後ろからグイっと手を引かれる。
振り返れば、少しだけ息を荒くした幼馴染がいた。
よほど急いで来たのだろうか、斜め後ろからチラっと見えた幼馴染の頬は微かに赤く染まっていた。
今まで話していた女子は突然の出来事にぽかんとした表情を浮かべている。
こちらとしても今の状況は正直よくわかっていない。
せっかく楽しくお話していたというのに、この幼馴染はいったい何を考えているのか。
「あ、あんたは私の荷物持ちでしょっ!」
夏帆の言葉に、思わずハッとする。
ここしばらく幼馴染からの下僕扱いが無くなっていたことで、すっかり油断してしまっていた。
俺の幼馴染はやはり理不尽で傍若無人なのだ。
だがしかし、せめて今日くらいは言わせてほしい。
「今日は荷物持ちいっぱいいるじゃん……」
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