セカンド・テイル

cafeサタデー(本店)

第一章「気まぐれオオカミ」(第一話)

ぼんやりと光る街灯だけが照らす港。

出港を知らせる汽笛がボウっと遠く響いている。

その灰色の倉庫街に響いた一発の銃声が、静けさを突き放した。

「やめてくれ… 来るなっ!!」

男の声が暗い夜空へと吸い込まれるように響く。

キツネ族の彼が向けた視線の先には、コートを羽織った灰色のシルエットが浮かび上がっていた。

そして影の人物との距離は無常にも徐々に縮まる。

男はつまずいて、大きな音と共に倉庫の壁に倒れ掛かる。

「悪かった… ほら、約束通りの金だ! 持ってけ!!」

男はそう言って持っていた大きな革製のバッグを影の方へと僅かに投げた。カバンは影の人物の足元に転がる。

「それで許してくれ!! 悪気はなかったんだ… それに俺は、逃げたりするつもりじゃ__」

低い、まるで地を這う竜のような声で影の人物は語る。

「黙れ…」

「ひいっ…! はいっ、はい… 黙ります黙ります」

影の人物はそう言って男を一喝すると、彼の投げた鞄を蹴り飛ばして、

男の額にピストルをそっと押し当てた。

「いいか、アール… お前が何を考えていたのかは、既にお見通しだ…」

同時に男の背中には冷や汗と恐怖が恐ろしいほどの速度で押し寄せてくる。

そして何回か口元が動き、声にならない必至の呻き声が出た後。

「分かった、その金はやる。俺の別荘もやる… ああ、そうだ、車もつけてやる!…それに、あとっ…」

見苦しい命乞いに、影の人物は『はぁ…』と呆れたため息をつき。

何も言わず、スッとしゃがみ込んで男の顔を覗き込んだ。

海風だろうか、それとも別の事象が原因だろうか。

辺りがギュッと寒くなり、自然と男は口を継ぐんだ。

「一応お前にチャンスをやろう、実はなぁ… お前を逃してやれる条件があったんだった… 忘れてたよ」

そう言うと彼はわざとらしく銃を下ろした。

「な、なんだ? 金か?」

「いいや、違う… 当ててみるか?」

影の人物はそう言って不気味に笑みを浮かべ、白い牙がチラリと映る。

「権力なのか? それとも知名度か??」

「全部、違うな… テメエが命乞いしなかった場合だ」

そのもう一発の銃声が、港の夜に静けさという名のパートナーを再び呼び戻した。

そして壁にもたれる様に倒れた男を見下ろしながら、ピストルをしまった彼はライターを取り出すと、タバコにそっと火を灯した。


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