第27話告知と逃走――ヤマタノオロチ、召喚予告のステージで

東京ドーム。熱狂する5万人の観衆。

茅場ヒロが最後の高音を響かせながら、ステージ脇をすれ違う──そこに、美凪(美月真白×小鳥凪の融合体)が立ちはだかっていた。


ヒロは、汗ひとつかかずに言った。


「ねえ、君ら。もう手遅れなんだよ。ヤマタノオロチ、復活するよ。M.S.S.が古文献通りに進めてるからさ。卑弥呼式魔法少女でもなきゃ、止められないらしいけど──君ら、できる?」


言葉は軽かった。だがその響きは、東京ドームの狂騒よりも鋭く、美凪の心臓を冷やした。


(ヤマタノオロチ……!?神話級の厄災……卑弥呼が封じた、八重干渉型幻獣……)


美凪は即座に魔素を収束させる。だが、ヒロの背後に漂う信仰力──5万人から吸い上げられた、純粋で無自覚な推しのエネルギーは、壁のように重かった。


(戦えない……今、まともにぶつかれば、信仰干渉されて思考が崩れる……)


凪の感覚が警告を発し、美月の判断が即時に落ちた。


「逃げる。だけど“告知された厄災”には、挨拶くらいしていかなきゃね」


美凪はすれ違いざま、術式を炸裂させた。


「感情干渉術式・瞬裂二重詠唱――“視覚位相逆転爆”!」


光の斬撃。幻覚に近い眩しさと、意識の歪みを誘う爆音。


ヒロは一瞬だけ眉をひそめたが、直後、ステージで観衆が再び熱狂の波を打ち始める。


「はは、痛いね。でも悪くない。“推される者”にとって、敵の魔法はご褒美なのかも」


ヒロのウインクに観衆が歓声を上げる。


美凪は地面を蹴った。

もう、あのステージは“触れてはいけない信仰領域”に変わっていた。

ヒロが宣告した“ヤマタノオロチの復活”。それはM.S.S.の黙示録であり、信仰の暴走兵器だった。


美凪は飛ぶ。光の背中を見ずに。

告げられた厄災を胸に刻みながら、撤退――その言葉の中に、未来への伏線が揺れていた。

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