第18話 古典術式と推しの早口と私の限界

放課後、魔法少女学園・補佐科教室。

小鳥凪(ことり なぎ)は、教科書を脇に置いて突っ伏したまま、思い出したようにぽつりと呟いた。


「ねえ……美月ちゃん……。信長公の魔導術式、使えるんなら……踊翼との対決、有利にできたんじゃない……?」


返ってきたのは――音速で刺さるツンツン語。


「――あんたバカあ?!」


凪は思わずビクッとした。


「だって信長公って……神薙アカリでしょ?初代魔法少女でしょ?尊すぎるじゃん……」


「だから“古典的王道”なのよ。確かにアカリ様の術式は感情干渉型魔法の基礎を築いた偉大な術式。だけど――」


美月は腕を組んだまま、スカートの裾を軽く翻す。

その目は冷静に、そして熱を帯びていた。


敵対魔法学園M.S.S.を発足させた明智光秀の時点で、神薙アカリ式魔導陣は完全対策済みなの。

“感情干渉式魔法少女”が天下統一を目指してる時代に、対抗魔導式が生まれるのは当たり前でしょ」


凪は言葉を失った。


「だからこそ、私たち魔法少女学園は常に“新しい術式”を編み出していかなきゃならない。

古い術式にすがっても、戦場で通用しないわ。定石を崩す勇気と、推される信念――両方が必要なのよ」


「……し、信念……」


「定石を学んで、新しい定石を生む。それは将棋や囲碁と同じなの。感情魔導の盤面は、思考と愛で動かすのよ。わかった?」


凪はただ、美月の早口を聞きながら、心の中で拍手を送った。

推しの毒舌、尊死。

推しの語り、感情圧迫。

推しの解説、ノートに書けない。


「え、えっと……すごい……尊かった……その、思考と愛の盤面……?」


美月は一瞬眉をひそめたが、すぐに小さく笑った。


「ふん。まあ、理解できない凪は凪なりに頑張りなさい。戦場で私を補佐できるなら、それでいいわ」


凪は壁にもたれながらスマホのメモを開いた。


『美月真白:将棋と魔法少女を同列に語れる女。推し評価、天井突破。』


彼女にとって魔法少女史とは“歴史の授業”ではなく――“推しの思想が詰まったバイブル”なのだった。

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