第17話 信長、スカートで参上(凪の尊死)

魔法少女学園・補佐科教室。


3限目の「魔法少女歴史学」は、いつも通り興味ゼロで望むつもりだった――が、小鳥凪(ことり なぎ)は教科書の隅に美月真白の名前をこっそり書いている時点で、すでに“いつも通り”ではなかった。


壇上の教師が黒板に大きく書き出した名前は「神薙アカリ(織田信長)」。


「初代魔法少女・神薙アカリとは、戦国の覇者・織田信長がTS魔導変身した姿だ」


(えっ…………信長が…………スカート…………?)


思考がふっとんだ。凪の視界には、美月が語っていた「魔法少女は尊さで殴る存在」という言葉が浮かぶ。


(殴るどころじゃないよ!?石火矢レベルの衝撃なんだけど!?)


教師はそのまま安土桃山期の魔法少女の暗躍、太平洋戦争裏の「太平洋魔法少女戦争」、そして魔導史における情緒干渉技術などを滔々と語っていたが……凪にはもう届いていない。


(血みどろな歴史の上に立ってるの……?魔法少女って、もっとこう……きらきらしながら浄化する存在じゃ……)


授業終了と同時に凪はスマホを取り出した。

想いを寄せる美月真白――魔法少女科の孤高の毒舌才女――にLINEを送る。


> 凪:ねえ美月ちゃん……今日の授業やばくない!?信長が初代魔法少女って……!?しかもTSって……尊いけど混乱しすぎてまともに呼吸できないんだけど……


すぐに既読がついた。鼓動が跳ねる。


> 美月:先生に直接聞きなよ。てか今さら?


一蹴だった。

その毒舌に凪は床に沈みそうになりながらも、画面を見つめる。


(えええぇぇぇ……でもその冷たい感じが最高に美月真白だよぉ……尊死……)


スマホを胸に抱いて天井を仰ぐ。

信長のスカート姿すら霞むほど、凪の脳内は美月の毒舌リプでいっぱいだった。


(もう……魔法少女史じゃなくて“美月真白史”を研究したい……)


こうして小鳥凪は、魔法少女学園のカオスな歴史と尊すぎる推しへの想いに挟まれながら、今日も世界の真実と向き合うのであった――。


魔法少女学園・補佐科教室:魔法少女史・戦国


「では、模擬演習を始める。テーマは――魔導スタイル:神薙アカリ式」


教師がそう宣言した瞬間、教室がざわついた。

信長がTS魔導変身して誕生したという、初代魔法少女・神薙アカリの魔導スタイル――その“感情干渉+覇道支配型”の魔法は、補佐科生徒にとっては恐怖そのものだ。


「は、はぁ!?演習って……あんなのできるわけ――」


凪の抗議は空しく、くじ引きによって凪は模擬演習の主役に選ばれた。


「ええぇぇぇ……!?何その信長式くじ運!!」


震える凪の隣、美月真白は冷ややかに立ち上がった。


「いいわ、やってみせる。信長式魔導、私にとっては“家伝魔法”みたいなものだから」


そう――美月真白は、信長を遠縁にもつ魔法少女家系の末裔。

そのことをさらっと言い放つだけでも、凪の心臓は限界を迎えかけていた。


(サラブレッドすぎるよ美月ちゃん……尊死不可避……!)


教師が黒板を指す。「模擬演習内容:感情干渉陣の展開および精神支配式魔導詠唱」


凪は半泣きで魔導陣を展開しようとするが、陣の紋様が「♥」と「??」で溢れ、支離滅裂。


「はは、はじめまして信長様……ご尊顔を拝したく……!」

「それ口上じゃなくて召喚事故よ」と、美月が即座に突っ込む。


その瞬間、美月の魔導陣が浮かび上がる。黒と紅で彩られた複雑な感情干渉陣。中心には「天下布魔」の刻印。


「“感情の乱世”、開帳」


その詠唱とともに、演習場の空気が一変。補佐科生徒たちが次々に心を揺さぶられ、精神支配の余波で体育館マットに沈む。


凪はただ呆然と美月を見るだけだった。


(こ、これが信長式魔導……!?尊さっていうか覇道じゃん!?戦国じゃん!?)


「凪。あなたの魔導スタイル、まだ“清純補佐型”だけど、信長式に混ぜるなら“激情補佐型”が向いてるわ。足癖を活かしなさい」


「なにそのアドバイス!?尊いけど怖いんだけど!?」


こうして小鳥凪は、信長式魔導スタイルの混沌と、美月真白の血筋というロイヤル尊さの渦に巻き込まれながら――彼女自身の“補佐の在り方”について、少しだけ考えるようになる。


世界が乱世を超えた先に、凪の魔法が花開く日は……まだ遠い。


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