《トイレットペーパーの芯》vs《覗き穴》

時刻は深夜。

人気(ひとけ)のない路地裏――いや、住宅街の片隅。


コロコロ……コロコロ……


暗いアスファルトを、白い何かがゆっくりと転がっていた。

それは、二足歩行で歩く《トイレットペーパーの芯》。


「ポッ……ポポポ……」と鳴き声のような機械音を発しながら、

芯は器用に足を動かしていた。まるで小動物のように。


そんな芯の進行方向に――


「………………」


突如、空中に“黒い穴”が現れる。


《覗き穴》。

その不気味な小さな穴は、じっとこちらを見ていた。


芯はぴたりと足を止め、カタカタと小刻みに震えたあと、

首のない体をわずかに傾け――穴に“視線”を向けた(ように見えた)。


すると、穴の向こうに――赤い瞳。


ジィ……っと芯を見つめている。


《トイレットペーパーの芯》、静止。

《覗き穴》、静止。


緊張が走る。

沈黙。

不気味な空気。


……しかし、次の瞬間。


芯が飛んだ。


ぐるん、と体を捻り、ジャンプ。

そのまま勢いよく《覗き穴》に体当たりする!


ボコン!!


「ギャッ!!?」


《覗き穴》の中から飛び出しかけていた“赤い目の主”が、奇声を上げて引っ込む。


芯、なおも攻撃。

コロコロと勢いよく前転しながら、穴に突進。

バシバシバシッと頭突きと足技を叩き込み、完全に容赦がない。


《覗き穴》、動揺。

“ぐにゅっ”と穴がゆがみ、ノイズのような悲鳴を上げて――


シュウウウウ……


煙のように掻き消えた。


そして芯は、勝利のポーズをとる(※ポーズは特にない)。

ただその場に立ち尽くし、また「ポポポ……」と音を鳴らしながら、夜の住宅街をスタスタと歩き去っていった。


……こうして、謎の邂逅は幕を閉じた。


なお、翌朝には「謎の芯が空中の黒い穴にドロップキックしてた動画」がSNSでバズり、

世界の混乱はさらに加速することになるのだが――


それはまた、別の話である。

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