ニート、あと二つの扉を確認する

「でもその前にまだ二つ扉があるんだよなぁ……」


そうぼやきながら、俺は、開けてない二つの扉を見る。

ガチャだの異世界だの、正直もう付き合いきれないが――

見てしまったものは、もう見なかったことにはできない。


俺は真っ白な空間に立ち、残された二つの扉を見つめた。

さて、どっちから行くか。


「とりあえず……右かな」


慎重に手をかけ、扉をそっと開く。

中を覗いて――


「うおっ……」


そこは、宇宙だった。


音もなく、ただ無限の星々が静かに瞬いていた。

遠くに銀河が渦巻き、小惑星がふわふわと漂っている。

どこまでも続く、果てのない宇宙空間。


「……いやいや、これ開けちゃいけないやつじゃん……」


酸素があるのかすらわからない。

試しに足を出しかけたが、背筋に冷たい汗が流れて、俺はすぐに引っ込めた。


そして、そっと扉を閉じた。


「うん、これは……今じゃないな」


残るは、あと一つ。


左の扉に手をかけると、ほんのりと暖かい風が流れてきた。


ギィ……と開けて、外を覗く。


広がっていたのは、自然と調和した“遺跡”だった。

石でできた巨大な建造物が木々に包まれるように佇んでいて、そこかしこに蔦や苔が生えている。

どこからか差し込む陽の光が、静かな光景を黄金色に染めていた。


「……え、めっちゃ綺麗……」


さすがに裸足で突入する勇気はなかったので、家に戻って靴を履いてから出直した。


慎重に石の階段を下りて、遺跡の中へ入る。

空気はしっとりとしていて、どこか懐かしいような匂いがした。


壁には不思議な模様。

床には埋め込まれたガラス片のような装飾。

空を見上げれば、鳥のようなものがゆっくりと飛んでいた。


「ここ、当たりじゃね……?」


思わずそんな言葉がこぼれるくらい、そこは“落ち着く異世界”だった。

ヤバい化け物も、怪しい影も、今のところ見当たらない。


遺跡の中をしばらく歩くと、奥に“出口”のような場所を見つけた。

石のアーチを抜けると、さらに開けた空間へ――


行けるかと思った。


「……ん?」


しかし、そこには目に見えない壁があった。

触れると、ピリリと静電気のような刺激が走る。


「これ……結界か?」


出られない。


どうやら、この遺跡は結界で閉じられてるらしい。

何かを解かないと進めない仕組みなのかもしれない。


「広そうだし、仕掛けとかもありそうだけど……」


ぐぅうぅ、と腹が鳴った。


「……帰ろ」


冒険は、腹が減ってはできない。


俺は遺跡の入り口まで戻り、名残惜しみつつも扉を閉じた。


「まさか宇宙とか遺跡とかあるとは思わなかったわ……」


自室に戻って、いつもの布団に転がる。

布団の感触が、なんかやけに“現実”って感じがして安心する。


「まあ、明日は明日のガチャがある……か」


そんなわけで、俺の一日は、今日も意味不明のまま終わっていく。


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