引きこもりニート、デイリーガチャを回す。

ライ。

ニート、《トイレットペーパーの芯》を当てる

朝、目が覚めたらガチャ画面が浮かんでいた。


いや、スマホの画面じゃない。空中だ。しかも、謎に透けてて、部屋の天井がうっすら見えてる。

「……は?」

寝起きの脳では、状況を処理するのに時間がかかった。いや、今も処理できてない。ガチャ。回せと? 俺に?


表示されてるのは、ソシャゲ風のUI。

金色のフチのガチャボタンに、しょぼいフォントで《デイリーガチャ・無料!》って書いてある。背景は適当なキラキラ。

なんだこのクオリティ。予算500円の個人開発アプリかよ。


「……回さなかったらどうなんの?」


×ボタンを押そうとしたが、押せない。

物理的に。指がすり抜けた。


「うわ、これ……あれだ……クソ広告系ポップアップじゃん……」


無視しても、画面は目の前から消えない。

どこを向いても、どこに寝転んでも、視界の中心にぴったりついてくる。


「……はいはい、やればいいんでしょ」


俺は観念して、画面の“ガチャ”ボタンを押した。


ピロリロリーン♪


無駄にうるさいSEと共に、回転する謎の歯車。玉っぽいカプセルがゴロゴロ出てきて、ガチャン、と止まった。


表示された文字は――


《トイレットペーパーの芯》


「……は?」


意味が分からなかった。

いや、字面は分かる。トイレットペーパーの芯だ。

でも、これガチャで当てるもんか? SSR? SR? R? そもそも用途は? 武器? 装備? 芸術品? 違うよな?


目の前に、どこからともなく、トイレットペーパーの芯が現れた。

ポスッと布団の上に落ちる。


「……マジで、ただの芯だよな……?」


持ち上げてみる。軽い。空洞。汚れてないけど、どう見てもただの紙の筒。


「……これが、俺の最初のガチャ結果?」


そう呟いて、俺はその芯をため息混じりに部屋の隅へ投げ捨てた。

すると――


ムクッ。


芯から、腕と足が生えた。


「……は?」


芯は二足歩行で立ち上がると、スタスタと歩き始め――勝手に窓を開けて外に出ていった。


「……いや、ちょっと待て!? なに!? 俺の部屋、今、現実!? 夢!?」


芯は振り返ることもなく、そのまま通学路を堂々と歩いていった。

そして残された俺は、布団の中でただひたすらに困惑していた。


俺の新しい人生が、こうして始まった。

最高にくだらなくて、最高に不安な形で。

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