義母にかけられた言葉

 次の日の朝、私は彼におはようと声をかけなかった。昨日の今日でなかった事にできるわけもなく、顔を見ただけで胸糞悪くなった私は無視を決め込んでいた。


 一方の彼はというと、その場で棒立ち。そして暫くした後、「なんで怒ってるん?」と何が何だかよく分からない表情で聞いてきたのだった。


(なんで怒ってるんやと? コイツ、ほんまに人の感情をかき乱す天才やな)


 私は頭に血が昇るのを感じた。少し仮眠したお陰で気持ちが落ち着いていたのだが、人を挑発しているとしか思えない言葉に私は心底腹が立った。


「昨日の事は全く覚えてないん?」


 彼は真顔で「覚えてない」と言葉を述べた。私は怒りを抑えながら淡々と事実を述べる。すると、彼の口からまたしても、この台詞が飛び出してきた。


「そんな事でなんで怒るねん! A子とはただの後輩やし、そもそもあんな女と付き合うわけないやん!」

「A子とお前の関係なんて知るか!! こっちはお前の行動が気持ち悪すぎて吐き気がすんねん!!」


 ついに私は怒りが限界突破した。恐らく、人生で一番激怒した瞬間だと断言できる。その間も彼は「覚えてない」だの「そんな感情は持ってない」の一点張り。謝罪の言葉は何一つなかった。


 保身に走る彼の姿を見て、私の胸の内に秘めた黒い感情は更に渦を巻く。感情がグチャグチャになった私はボロボロと涙が溢れた。


 この日、人生で初めてメンタルの不調を理由に仕事を休んだ。彼に仕事を休むと言うと、「俺も休む!」などとアホな事を言い始めた為、「いいから早く仕事行ってこい!!」と強制的に家から閉め出した。


 その数時間後、義母から電話がかかってきた。昨日あった事を説明し、彼と離婚したいと言うと、「私の育て方が悪かったんやなぁ……」と落ち込んでいた。


 しかし、次に紡がれた言葉に私は絶句する事となる。


「あの子が務めてる会社は基本的に人との距離感が近いんや。だから今回みたいな事は普通にあるし、A子もノリでそんな事をしたんやと思う。だからな、今回は私の顔を立てて離婚はせんといてくれへんかなぁ?」


 いやいや、何を言っとんねん? 普通の先輩後輩が恋人繋ぎで、好き好き言うとかあり得んやろ!? としか思えなかった。まさに『この親にしてこの子あり』という言葉がこれ程似合うとは……。


(めちゃくちゃ腹立つ……。二人共、どうにかなってしまえ!!)


 彼だけに向いていた怒りの矛先が義母にも向いた瞬間であった。

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