2-7
ジェレミーはアメリから受け取ったハルスリーを
(この事件を殿下に解決してもらう? でも一刻を争うし、自分でどうにかしたほうがいいかな。殿下の人気アップには別の方法を……)
その時、向かいからルーファスが現れた。ジェレミーは立ち止まり、頭を下げる。
「殿下、これから授業ですか?」
「ああ。……お前、複製魔法なんて使えたのか?」
「え、これがコピーだって分かるんですか!? 」
複製魔法は属性に
しかしあくまで複製できるのは外見だけ。
たとえば生き物を複製したとしても、実際に動き出したりはしない。
「人間の目は
まさかの
「……なるほどな」
「何がなるほどなんですか?」
「鎮痛剤は便利だが、使いすぎれば中毒になりうる。
しょう》の連中にとっては
「じゃあ、本物を売り払っていることを
「おそらくな。学内を怪しまれずに動けることを考えれば、内部犯で
「そろそろハルスリーが成熟しきる頃です」
「ちょうどいいな。放課後、付き合え」
「はい!」
ジェレミーたちは放課後、錬金術科の植物園に
ここで授業で使われる様々な植物の
「手はずは覚えているな?」
「
しばらくして誰かが入ってくる。その人物はまっすぐハルスリーの
肩に
「精が出るな」
ルーファスが
「これは殿下。こんな時間に何を? すでに一般生徒は帰宅している時間ですよ」
教師は努めて平静を装っている。
「お前こそ、そんなにたくさんのハルスリーをどこへ持っていく?」
「これは……明日の授業に使うために」
「だったら、わざわざコピー品と入れ替える必要はないだろう」
「殿下、言いがかりはやめてください。これは新しいものを
「複製魔法は確かに
「何を
「植物は葉の色や形、
教師は顔を
「こ、この無能者が、適当なことを!!」
教師が魔法を唱えようとしたその瞬間を狙い、ジェレミーは風魔法を放つ。
教師は
その一瞬の
「ぐ、ぇ……」
教師は白目を
(格好いい……!)
「馬鹿な奴だ。ジェレミー、すぐに人を呼んでこい」
教師が闇マーケットに稀少な植物を売り払っていたというニュースはあっという間に、生徒たちの話題をさらった。
それを解決したのがルーファスだということが、さらに注目を集めた。
(ルーファスのイメージも向上したし、事件も解決できて良かった)
生徒の間では馬上槍試合のことがまだ
原作では、ルーファスが周囲からの心ない言葉や悪評で、
その日、ジェレミーは次の授業を受けるため、教室を移動していた。
クリス――。
声をかけようとしたが、彼は一人ではなかった。
何人かの男子生徒たちと一緒にいたが、雰囲気からして友人でないのは明らかだ。
おそらく上級生。クリスの顔には不安と
「お前、ラインハルトとデキてるんだよな」
「俺たち、あいつにひどい目に遭ってるんだよ。どうしてくれるんだ?」
クリスは、
確かにラインハルトが実力行使に出るのはクリスを守るためか、降りかかる火の粉を払うためだけ。
絶対に自分から相手に突っかかることはない。
「あ? 俺たちが悪いっていうのかっ」
「ラインハルトがいるからって調子にのってんじゃねえか、お前」
「ち、違います。僕はただ……」
「口答えするのかっ!?」
男子生徒の一人がクリスの襟首を摑んだ。
「お前ら!」
ジェレミーは三階から飛び降りると同時に、風魔法を使って
「何だ……!?」
「ぐぁあ!? め、目がぁ……っ!」
不意打ちを成功させたジェレミーは男子生徒たちが
こんな無茶なことをしたのは初めてのせいか心臓がバクバクいっている。
「クリス、平気?」
「は、はい」
クリスはかすかに震えていた。
ジェレミーはクリスを安心させようと抱きしめ、背中をさする。
しばらくすると震えが収まっていく。
「あ、ありがとうございます……」
照れくさいのか頰を赤らめたクリスが、
(そんな顔を見せられたら……!)
ジェレミーもまたクリスに落ちてしまいそうだ。
慌てて
今はそんなことを考えてる場合ではない。
「あいつら、何なんだ?」
「……話があるって呼ばれて」
「クリスの人を疑わないところは美点かもしれないけど、もう少し警戒したほうがいいよ」
「……反省してます」
「もしかしてこれまでも同じようなことがあった?」
「これが初めてです」
「なら良かった。ラインハルト先輩は今の時間どこにいるの?」
「授業を受けているはずです」
「じゃあ、授業が終わるまで一緒に図書館で時間を潰そう」
「ジェレミー先輩、授業は
「この時間は何も取ってないから、ちょうど暇を持て余してたんだよ」
今は自分のことより、クリスを守ることが先決だ。
(さっきのことをラインハルト先輩に教えるまでは一緒にいないと)
クリスのことだから、心配させまいと黙っている可能性もある。
クリスも一人でいなくて済むと分かって、ほっとしているようだ。
授業が終わるまで図書館で時間を潰すと、昼食の約束をしていたらしいラインハルトの元へ向かう。
「どうしてお前がクリスと……!」
ジェレミー・ルーファスの手下という
「落ち着いてください、誤解です!」
「ああ? 何が誤解だって?」
「ライン、やめて! ジェレミー先輩は僕を助けてくれたんだよ!」
「助ける……?
「ちゃんと話を聞いて!」
ラインハルトは、クリスの強い呼びかけにはっとする。
クリスは何があったかを話すと、それまでの殺気が一変した。
「本当に平気なのか?」
ラインハルトはまるで自分が傷つけられたかのように、今にも泣き出しそうな不安げな表情になり、「ジェレミー先輩のお陰で、何ともないよ。安心して」というクリスの返事に、さっきとは打って変わった
「クリスを守ってくれて、助かった! 感謝する!」
ラインハルトは絶対に頭を下げるような人じゃないのに。
「や、やめてください。当然のことをしたまでですから!」
ジェレミーのほうが慌ててしまう。
ラインハルトは顔を上げると、ふっと表情を緩めた。
クリス以外の誰にも笑顔を見せないはずのラインハルトが、微笑むなんて。
「ラインハルトでいい。それから
「でも」
「いいから、タメ口で構わねえよ」
「ラインって呼ぶのは……?」
「調子にのるな」
「……ラ、ラインハルト」
呼び慣れないせいで
「せっかくだ。昼飯を
「二人の邪魔になるんじゃない……?」
「そんなことありません。一緒に食べましょっ」
「邪魔なわけないだろ」
(うわあ……推しカップルと一緒に食事とか……!)
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