N博士のNダッシュ
ロックホッパー
N博士のNダッシュ
-修.
「N博士、研究の状況はいかがでしょうか。」
投資家のエージェントはN博士のラボを再び訪れていた。N博士は重力制御の権威であり、そして千年に一度の天才と言われていた。そして最近、遂に重力制御を完成させ、投資家に大きなリターンを与えることができた。その結果、投資家は更なるリターンを期待して、新しいラボと潤沢な研究費を与えていた。エージェントは定期的にN博士のもとを訪問して、新たな研究成果がないか確かめていたのだ。
「以前、通勤時間を0にするため、地上ワープを検討したことは覚えているかな。そのときは原理的なところは解決できていたものの、周辺課題が多くてこの方法は断念していたのだ。しかし言うまでもないが、ワープが実現できれば宇宙開発が大きく前進することになる。重力制御とワープを組み合わせれば、恒星間、いや銀河系間の探索も可能となるだろう。そこで、もう一度課題を見直すことにした。」
「ほう、それは素晴らしいですね。もし実現できれば、人類にとって大きな成果となりますね。」
N博士は投資家に莫大な利益をもたらす発明に取り組むこともあれば、それをあっさりあきらめることもある。エージェントは、N博士が気まぐれで、かつ頑固だということを熟知していた。このため、N博士の研究がおかしな方向に向かっていたとしても、一切、否定も軌道修正もしないことにしていた。以前、N博士がワープの研究をあきらめたときは、エージェントは高額なボーナスをもらい損ねて落胆したが、機嫌を損ねかったことが良い結果を生みそうだと大きく期待した。
「しかしな、宇宙空間であっても、やはりワープは周辺課題が極めて多いのだ。どの課題も大変複雑で重要性が高く、しかも解決できないと致命的な欠陥となる。だから、どの課題も真剣に深く研究しなければならず、いくら時間があっても足りないくらいだ。」
「え、それなら優秀な助手を何名か手配しましょうか。」
エージェントは、ワープの有人テストは職を辞してでも絶対に断ろうと思う一方、N博士が少しでも早く発明を完成するためには、どんな努力もいとわない覚悟だった。
「いや、わしと同等のレベルの助手というのは、そうそう居るものではないだろう。そこで、ワープの研究に先立ち、わしと同等のレベルで研究ができる助手ロボットを作ることにした。」
エージェントは、一瞬、研究の方向がずれたような気がしたが、結果的には完成が早まるのではないかと考えた。
「ほう。もしや、既にできているのではないですか。」
「さすが。付き合いが長いだけあって君は察しがいいな。Nダッシュ、入ってこい。」
N博士の呼びかけに応じて人間型のロボットが部屋に入ってきた。エージェントはロボットの外観に見覚えがあり、N博士に尋ねた。
「このロボットはどこかの国の企業が開発したものによく似ていますね。」
「左様。開発時間を短縮するために、ロボット自体はメーカーの汎用ロボットをそのまま使っている。問題は頭脳だ。このロボットの頭脳の本体は別の部屋に置いてある量子コンピューターとスーパーコンピューターに高速通信で接続されている。そして、これらのコンピューターには、わしの行動パターン、論文、研究日誌などを学習させ、わしと同じ考え方、同じレベルで研究ができるようになっておる。」
「それはすばらしいじゃないですか。N博士の代わりになるんですね。」
エージェントは、万一N博士に何かあっても「Nダッシュ」と呼ばれた、このロボットが代わりに研究を続けてくれるのではないか、であれば、このロボット自体がかなりの成果ではないかと期待した。
「左様。まあ、それが目的だからな。数日前に完成したので、ワープの課題、例えば出現座標のずれが起こる原因と対策とか、出現座標に小惑星のような物質があった場合の衝突回避策とか、いろいろな課題の研究を開始させたのだ。」
「すごいですね。じゃあ、Nダッシュが研究を手伝ってくれて、ワープが実現する日も遠くないということになるんですかね。」
「うむ、まあ、それはそうなんだが・・・」
エージェントはN博士が少し言いよどんだところが気になった。
「何か問題があるんですか。」
「実はな、Nダッシュの研究記録をときどき確認するようにしているんだが、課題を多く与えすぎたせいか、Nダッシュが自分の処理能力を超えたと判断したようで、課題そっちのけで、自分をサポートするロボットの研究を開始したようなのだ。まぁ、言わば『Nツーダッシュ』だな。」
「N博士と同じ考え方ということですかね・・・」
エージェントは、投資家に対しては、N博士はワープの研究に取り組んではいるが、完成のめどは立っていない、と報告しておこうと決めた。
おしまい
N博士のNダッシュ ロックホッパー @rockhopper
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