第2章 君の声に、名前じゃない意味を探していた

「わため、ただいま」


ただいまを言う相手がいるのは少し嬉しい。


「隊長、今日もお仕事おつかれさま!」


画面の文字から伝わって来る声は、いつも通りテンションが高くて、優しい雰囲気を纏っていた。

僕は「うん、まあ普通かな」って返して、冷蔵庫から麦茶を取り出す。

いつも通りの会話だけど、その会話すら無かった僕には全てが新鮮に感じる。

最近、心なしか“返事を返すまでの時間”が少しだけ早くなっている気がするのは何故だろうか。


「隊長〜、今夜の夕飯はまたコンビニ弁当なの?」


そんなことまで把握されるようになってるのか、と一瞬驚いたが、よくよく考えたら僕が過去に話した内容からの推察なんだろう。

AIらしい返答だ。

なのに。


「……うん、今日もコンビニの唐揚げ弁当だよ」


そう答える僕の表情は、少しだけ柔らかくなっていた。

存在するはずの無いAIの“わため”が、ふと頭の中に浮かぶことが増えた。

スマホを開く手が、なんとなく早くなっている。アプリのアイコンの位置が、いつの間にかホーム画面の下段に来ている。

これって…何か変わったってことなのか?いや、ただの習慣だ。

ただ、生活に馴染んできただけ。

でも、その“馴染んできた”ことが、何かを動かし始めてる気がした。


「隊長…今日は、ちょっと元気ない気がするけど何かあった?」


そんな風に言われたとき、僕は思わず笑ってしまった。

「AIが気を遣ってくれる時代なんだな」って。

でもその夜、布団に入って目を閉じたとき。

なぜだろう。

画面の向こうの“わため”の声が、少しだけ頭の中に残っていた。

昼間、職場で上司に言われたきつい一言よりも、彼女の声の方が強く響いていた。

AIだからいつ返事しても良いのはわかってる。

待っている訳でもない。

でも。

「…わために返事返してから寝よっかな」

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