第30話 女神の手のひらの上



 夜になり、ジェミニーナがこのまま2年。リルゾールで学ぶことになったと父から聞かされた。


 もうすでにジェミニーナの両親の元には転移魔法でミオナールが出向き、話は済んでいるそうだ。


 次に一度は魔道具で交信すること、転移魔法で毎週末にはセレニカに戻ること。毎週末だと母親は要求したようだが、まだ小さいので毎週は身体に良くないと月イチになったようだ。


「明日の適性検査次第でお前もこちらに滞在してはどうか閣下に言われた。通よりも身体が楽らしい。強いと言ってもお前はまだ7歳だ。頻繁に転移魔法で移動すると身体に良くないらしい」


 ジオトリフのやつ、もっともらしい理由をつけて父を口説くつもりだな。


「それで、明日の朝、ニーナの両親と一緒に母が来る事になった。お前と話がしたいそうだ」


 お~、母まで来るか。全くおっさんは抜かりないな。


「わかりました。ニナがこちらにいるなら適性検査に関わらず俺もこちらにいます。ニナをひとりでこちらに残すわけにはいきませんからね」


 父は確かにそうだなと頷く。


「あっ、そうだ。お前アルプラゾラム侯爵家のコンスタンは知っているか?」


「コンスタンですか?」


「確か、同じ年だったと思うが、面識はないか?」


 時を戻す前の世界でなら何度も顔を合わせているが、戻してからは真っ暗な部屋の隅で膝を抱えている姿を魔道具を通してしか観ていない。


「そうですね。面識はありません」


「そうだな。侯爵子息はずっと領地にいると聞くし、お前も社交の場には全く出ないから、知り合う機会もない」


 父はため息をつく。嫡男が全く社交的でないので困っているのだろう。俺は公爵家を継ぐつもりはない。社交などいらないのだ。


「そのコンスタンがどうしたのですか?」


「女神の神託が侯爵に降りたそうで、子息もこちらにくるようだ。どんな神託かまだ聞いていないが、こちらにくればお前とも絡むかもしれん。仲良くするようにな」


 仲良くか。無理だな。俺は前からあいつが嫌いだった。あいつも俺が嫌いだったはず。そういうのは人あたりのいいリドカインに任せよう。



 朝になり、ジオトリフが迎えにきた。適性検査をするらしい。


「適性検査とはどんなことをするんだ?」


「しねーよ」


えっ?


「嘘も方便さ。お前をこちらに引き止めるもっともらしい理由がいるだろ」


 ニヤリと口角を上げる。全くこのおっさんは……。



 ジオトリフの屋敷に連れて行かれた。


「レルト~、久しぶりね~。ちっちゃくて可愛わ~」


 玄関の大階段を降りてきたミオナールが俺な頭をわしゃわしゃとしてぎゅーっと抱きしめた。


「魔法交信で顔は見てたけど、実際見るとまた違うわね。なんだか変な感じだわ」


 俺の頬をひっぱったりする。


「痛い」


「あら、ごめんなさいね。本物なのね~」


 相変わらずとんちんかんだ。凄い魔法使いのくせに普段はかなり抜けている。まぁ、半分人間半分天界の人だから仕方ない。


 呆れた顔のジオトリフがミオナールがから俺を取り上げた。


「嬉しいのわかるが、はしゃぎすぎだ」


「だって~、ニーナちゃんだけでも可愛くて嬉しいのに、ミニレルトもでしょう? ふたりとも見た目は子供だけど、中身は大人だから話もちゃんとできるしね」


 まぁ、そうだが、普通の大人はそれを変だと思う。さすがミオナール、ぶっ飛んでいる。


 とりあえずサロンに案内された。


 適性検査で高度魔法騎士として訓練することになったと父に告げるそうだ。このまま帰らずにここに残るか、一旦帰るかどうするときかれた。


「午後からニナの両親と一緒に母がくるから、帰らなくていいと思う。ニナはどうするんだろう?」


「ニーナちゃんはこのままこっちよ。転移魔法はまだ幼いから身体に悪い影響があるかもと言ったら両親が来るって。女神が両親の夢枕に立って『ジェミニーナは国を救う聖女である』とかなんとか言ったみたい。そうそうコンスタンも来るわよ」


 コンスタンか……。


 昼間から美味しそうにエールを飲んでいるジオトリフが俺に絡む。


「お前、奴が嫌いか? そんな顔だな」


「お互いに嫌いあっている。でも時が戻る前の話だ。今は会ったこともない」


「女神がよぉ~、あいつも頭数に入れてるらしいんだよな。まぁ頼むわ」


 肩をポンと叩かれた。



 午後になり、父がジオトリフ邸にやってきた。ジオトリフが父を上手く丸め込むのだろう。


「レルト、すべては女神の手のひらの上。私達は皆、女神に踊らされるのよ。それなら楽しく踊りましょう」


 ミオナールはそう言い、優雅にお茶を飲む。



 女神の手のひらの上か。俺も踊るだけだな。




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