第32話「ルル奪還作戦①」

バジリコ三姉妹のスパイシーすぎる誘惑を耐え抜いた(……いや、結局楽しんだ?)俺は、ついに本当の目的を口にする時がきた。


「ありがとう、みんな。楽しかったぜ。でも約束だから、ルルの居場所へ連れてってくれないかな?」


三姉妹は一瞬きょとんとしたが、すぐに表情を変える。


ラヴィーナは肩をすくめて、にやりと笑う。

「ちぇっ……やっぱそう来るよな……。でも楽しませてもらった分、やっぱり約束守んないとな」


マルティナも頷きながら、涼しい顔で扇を閉じる。

「仕方ありませんわ。それにカナメ様、ルルさんに未練がある間は、結局私たちの方を見る余裕がないんじゃないかしら」


リリカもようやく止まった鼻血のティッシュを外して、決意を込めて言った。

「もちろんっす。愛するカナメっちのためだから、ルル姉の居場所くらい教えるっす!」


場が一気に締まり、三姉妹の視線が俺に集まる。その真剣さに、俺も力強く頷いた。


「じゃあ……早速行こうか、ルルを奪還しに!」


ラヴィーナが伏し目がちに眉間に皺を寄せた。

「ちょっと待った!居場所教えるのはいいけど、相手は《PIЯI PIЯI》の総統、ハラペーニョ大佐だぞ……。側近も傭兵もたくさんいて、戦力ヤバいんだぜ?どうやって一人でルルを取り戻すつもりだよ?」


ラヴィーナの言葉で、背中に冷たいものが走った。確かに相手はただの一味じゃない。《PIЯI PIЯI》の総統にして、様々な道具も使いこなすハラペーニョ大佐――バジリコ三姉妹相手に一度も負けなかったルルを攫った張本人だ。正面から殴り込むには無茶が過ぎる。


「お前ら……手伝ってくれるよな?」


不安げに声を出した俺を見て三人は顔を見合わせて笑った。


「これからも、私たちと仲良くしてくれるって約束してくだされば喜んでお手伝いしますわ!」

「心配しなくっても、あの夢の中みたいに愛の力で助け合うっすよ!」

「そうだぜ、水くせえこと言わないで一緒にやろうぜ。ただルルが返ってきたら、うちらは無視とかだったら許さねーからな!」


「ありがとう、お前ら」

俺は目頭が熱くなるのを感じながら、心からそう言った。


「ふふっやっぱり可愛いな、カナメは♡」

「ルルさん奪還、やりますわよ♡」

「カナメっちも今日からバジリコ四姉妹っす!♡」


「俺、男なんだが……」


笑って一致団結した俺たちは深呼吸して、持てるだけの冷静さで話し合う。ここで勢いだけで突っ走ったら、ルルを傷つけるかもしれない。やるなら練った作戦が必要だ。


「分かった。正面突破は無理なんだな。どうするか、具体的にプランを立てよう」


ラヴィーナがにやりと口角を持ち上げる。普段の軽口が消え、目が鋭くなった。


「細かい配置図や誰が何メートルに立ってるかなんて、ここで詰めても意味ねぇだろ?」

ラヴィーナが肩をすくめる。「重要なのは三つだ。入口、警戒の目を逸らす、そして脱出経路。あとは現地で臨機応変に動く――それが本当の腕の見せ所だぜ」


「私にいいアイデアがございますわよ」


マルティナがどこか遠い目をして語り出した。

「ハラペーニョ大佐の弱点は、妻のタバスコ夫人ですわ。正面からやり合うより、タバスコ夫人を味方につけて、ハラペーニョ大佐を追い込めば、簡単にルルさんを解放できるはずですわ」


「どこで、そんな情報手に入れたんだよ、マルティナ」

ラヴィーナが不思議そうに妹を見つめた。


「実は……あのハラペーニョ大佐、わたくしの胸に手を伸ばしてきたことが何度もありますの」


「えぇぇ!?せ……セクハラっすか……!?」

思い切り眉間にシワを寄せるリリカ。


マルティナは肩をすくめる。

「……ですが、その現場をタバスコ夫人に見つかった時がありましてね。その後、大佐は……夫人の“スパイス拷問部屋”に三日三晩閉じ込められたそうですわ。そして帰って来た大佐は、大きく腫れ上がった股間を抑えていることが増えて、その後2週間は元気がなかったんですの」


マルティナ「何……されたんだろうな……?」


俺「想像したくねー……」


リリカ「強烈なスパイスで……あんなことやこんなことを……」


ちょっと背筋が震えたが、俺たちはニヤリと笑って、タバスコ夫人を味方につける作戦を真剣に考え始めた。


俺「夫人の好きなもの、何か知らない?」


ラヴィーナが少し考え込みながら答える。

「……確か、世界のポップコーンマニアとして有名らしいぜ。珍しいフレーバーを集めて、食べ比べするのが趣味とか」


リリカ「ポップコーンっすか!?……そんなことで大丈夫っすか!?」


マルティナ「……安っぽい趣味とはいえ、タバスコ夫人のご機嫌を取るには有効かもしれませんわね。地球産の変わり種を差し入れれば、機嫌を損ねるリスクは少ないでしょう」


俺「よし……なら、地球に戻って面白ポップコーンを仕入れてこよう。激ヤバ系でインパクト抜群のやつをな」


リリカ「うわぁ……カナメっち、夫人を怒らせないように気をつけるっすよ……!」


ラヴィーナ「でも、多分大丈夫。変な味でも、夫人が面白がってくれれば勝ちだ。こんな推し活のポイントは“笑い”と“驚き”だからな」


三姉妹と俺は、にやりと顔を見合わせ、地球ポップコーン作戦でハラペーニョ大佐を追い詰める作戦を決定した。


——そして俺たちは、速攻で地球に帰還した。街に降り立つや否や、リリカが目を輝かせて叫ぶ。


「カナメっち!あのでっかいディスカウントストアっす!めっちゃ怪しげなポップコーンありそうっす!!」


大型ディスカウントストアの食品コーナーに突入し、俺たちは棚の前で目を皿のようにして怪しいポップコーンを物色した。


ラヴィーナは眉間に皺を寄せて吟味する。

「……この“ワサビーフ納豆味”、本当に食えるのか?」


マルティナは小さなメモ帳を取り出してフレーバーをチェックする。

「夫人の趣味は“世界の珍味ポップコーン集め”……なら、この“カレー激辛チョコ味”も候補ですわね」


リリカは手当たり次第にカゴに入れながら、楽しそうに叫ぶ。

「カナメっち!これも、あれも!全部買うっす!タバスコ夫人、絶対驚くっすよ!」


俺は心の中でツッコミを入れつつも、カゴの山を見て苦笑した。

(……こんな量、持って帰れるのか?まあ、笑いの力で何とかなるか)


こうして、我々の手には地球の怪しげポップコーンが山のように詰まったカゴが並んだ。

これでタバスコ夫人のハートを射止め、ハラペーニョ大佐を追い詰める準備は整ったのだろうか――。


俺は山積みの怪しげポップコーンを見つめつつ、ふと考えた。

「で、地味に重要な話だけど……お前らハラペーニョの部下だろ?アジトに潜入する時、どうやって変装するんだ?」


ラヴィーナはにやりと笑う。

「任せとけ。スパイ活動が得意な私ら三姉妹は、どんな衣装でも完璧に変装できるさ。訪問スパイス屋の店員だろうが、謎のポップコーン愛好家だろうが、バッチリ騙せるぜ」


マルティナは冷静に補足する。

「それに私の調合で、少し香りを変えればスパイスセンサーも誤魔化せますわ。……現地で急な変更があっても、臨機応変に対応可能ですの」


リリカが目を輝かせて言った。

「カナメっち、どうせならあたしは十二単に変身したいっす!カナメっちは侍っす!!」


俺は苦笑しながら肩をすくめる。

「……それは、目立つから夢だけにしとけよ」


ラヴィーナとマルティナはそのやり取りを見てニヤリ。

俺たちのルル奪還作戦、どうなることやら……。


(ルル、無事で待ってろよ……絶対助け出してやるから!)

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