第30話「スパイシーな誘惑〜マルティナ編」
「お、おう。早くしてくれ、ルルが心配だから」
俺がそう言うと、マルティナの瞳が少し、翳った。
「カナメ様ひどいですわ……私こんなに全力でカナメ様のために尽くすつもりですのよ……」
そう言うと、胸元を押さえていたガウンを一気に脱ぎ捨てる。
ガウンの下に隠れていたのは、マルティナのスレンダーに見えて実は肉感的な白い肢体を締め付ける、ピチピチの黒いビニール製ハイレグレオタードだった。
彼女の大きなバストは、レオタードから今にも溢れ落ちそうな程盛り上がり、下半身を隠す布の面積もあまりに頼りなく、マルティナは恥ずかしいのか、俺の目を避けるように横向きに俯いていた。
「お、おまっ……!?」
思わず声が裏返った。
黒光りするビニールの質感、そしてハイレグから伸びる長い脚。
一瞬、場違いなコスプレ会場に迷い込んだ気分になる。
「ど、どうですの……?」
マルティナは顔を赤く染め、こちらをちらりと見た。
「恥ずかしいですけど……カナメ様にだけは見ていただきたくて、勇気を振り絞ったんですのよ」
「勇気の方向性、それでいいのか!?なんて言うファッションだよ……」
俺は額を押さえた。
「あ、これを忘れてましたわ!」
そう言うと、マルティナは白くて長いウサギの耳の飾りを頭に装着した。
「うわぁ、なるほど……って何で急にバニーガールなんだよ!」
俺は思わず椅子を蹴って後ずさった。
マルティナは胸元と股間を両手で隠しながら、でも隠しきれずに溢れそうな谷間を揺らしている。
「だ、だって……私、一度バニーガールになるのが夢で……それに、この衣装を着れば、カナメ様もきっと元気に……」
「体の一部だけ元気になりすぎだし、鼻血出そうだわ!」
俺が叫ぶと、物陰から声がした。
「うわあ、カナメっちがあんなに……ヤバい、アタシも鼻血出るっス!!」
リリカが目と鼻を押さえながら、慌てて飛び出してくる。
「くっそ〜……! やっぱそっちか!!私もセクシー水着で攻めれば良かった!待ってろカナメ!今から着替えて来るから!!」
ラヴィーナがギリギリと歯噛みしながら拳を握りしめ着替えを取りに走ろうとする。
「いやいやいや!! 誰も競うな!!」
俺は必死で手を振った。
――この状況、どう考えてもツッコミ役が俺しかいないのが不公平すぎる。
そんな俺の狼狽をよそに、マルティナはすっと姿勢を正した。
「……うふふ。カナメ様、驚いてくださって嬉しいですわ。けれど……これはまだ序の口」
彼女は胸元に手を伸ばすと、小さな金色の瓶を取り出した。
「この日のために研究を重ねて。特別に調合しましたの。名付けて――《セクシーカルダモン》♡」
瓶の蓋を開けると、甘くスパイシーな香りがふわりと広がり、鼻腔を直撃する。
カレーを思わせる芳香なのに、どこか官能的で……妙に脳を痺れさせてくる。
「な、何なんだよそれ!?料理か!?香水か!?それとも媚薬か!?」
俺は慌てて叫んだが、もう遅かった。
マルティナはその中身を自分の胸元にそっと塗り広げ――
「カナメ様……私の胸で、存分にお確かめくださいませ♡」
マルティナの白く豊満なバストが、揺れながら甘いスパイスの香りとともに迫ってくる。
次の瞬間、俺の顔は柔らかな感触に包み込まれた。
……ムニュッ!
「うおおおおお!?!?!?」
柔らかい、温かい、そしてスパイシー!!
胸の心地よさと香りが脳に直撃して――俺の体は、一瞬で異様なほどに熱を帯びていった。
気づけば全身がムキムキに膨れ上がり、胸毛がわさっと生え、インド風の金色ラメレオタードを着ている俺がいた。
しかもなぜか、胸元には堂々と「セクシー♡」の文字が光り輝いている。
ヤバいと思ったがもう遅い。自分の体が何者かに支配されたように、無駄にパワフルでギンギンで俺は呆気に取られていた。
「カ、カナメっちが……進化したっス!?」
リリカが口を押さえて震える。
「くっ……! やられた!!何なんだよそれ!?こんなの反則だろ……!」
ラヴィーナは地団駄を踏み、着替えを持つ手が止まっていた。
「さあ、カナメ様♡、私と一緒に踊ってくださる?」
その時、耳に直接響くように心地よいビートの効いた、インド風のラップが鳴り響く。よく分からないが、
「ボンボンブルルン♪セクシースパイシー♪カモンシナモンカルダモンダモン♪」
みたいに聞こえる。
マルティナが両手を掲げ、セクシーな表情で、胸を上下に弾ませるたびに、そのビニール製のレオタードはギリギリと悲鳴をあげ、胸が今にも溢れ落ちそうになる。
股間の布地も危うく、視線の置き場に困るほどだ。
そして俺――!
勝手に体が反応し、筋肉がビートに合わせて波打つ。
「セクシー♡」の文字が胸元でギラギラと輝き、インド映画ばりに腰をぐるんぐるん回しながら、スビンやジャンプを決めていた。
(いやなんで俺が踊っちゃうんだよ!?)
だがもっと問題なのは下半身。
マルティナの踊りに刺激され、いつも以上に誇張されたシルエットが、金色ラメレオタードを内側からぐいぐい押し広げている。
ピチピチの衣装がパンパンに伸び、動くたびに布地が悲鳴をあげ――
「ビヨーンッ!」
……思わず効果音まで聞こえそうなほど目立ってしまっている。
「う、うわぁぁぁ! カナメっちの衣装が限界突破っス!!」
リリカが鼻血を吹き出しながら床に崩れ落ちる。
「や、やっぱり! 私も……私ももっとスケスケの水着を着て来るっ!!」
ラヴィーナが再び走り出そうとする。
「待て待て待て待てぇぇぇ!!」
俺は腰を抑えながら必死に制止しようとするが、インド風リズムに、腰のスイングが止まらない。
「ううーっ、見てるだけで体中が火照っちゃうっす」
リリカが鼻をティッシュで抑えながらも食い入るように俺たちを見つめている。
♪♫ ♪♫ ♪♫ ♪♫ ♪♫ ♪♫ ♪♫ ♪♫
セクシーすぎるバニーガール、マルティナと、謎のムキムキインド人(俺)の、今にもヤバい肉がはみ出しそうな超絶セクシーダンス。俺は意識が遠くなり、どこか視界がピンクになって来るのを感じていた。
――このままじゃ、本当に俺まで「スパイシーな誘惑」の虜になっちまう!!
「カナメ様ぁ……もっと熱く、もっと近くで……♡」
マルティナが腰をくねらせて寄ってくるたび、胸元のスパイスの香りが強くなっていく。
甘くて刺激的――まるで灼熱のカレー鍋に頭から突っ込んだみたいに、脳みそがグツグツ煮え立つ。
「く、くそっ……これはただの匂いじゃねえ……!」
俺は必死に理性を保とうとするが、腰のスイングがどんどん大きくなり、ついには2人でインド映画特有の謎ポーズまで決めてしまっていた。
「セクシーッ!!」
胸毛が風になびき、リリカぐらいしか観客がいないはずの空間で大歓声が幻聴のように響く。
「ふふ……♡ 最高ですわ……♡ 効いてきましたわね、《セクシーカルダモン》……」
マルティナが艶めいた笑みを浮かべる。
「やばいっス! カナメっちの理性ゲージが赤点滅してるっス!!」
リリカがゲームの実況みたいに叫びながら、ティッシュを詰めすぎて完全に鼻がパンパンにふくらんでいる。
「止めないと……でも止めたくない……! この勝負、私も混ざるっ!!」
ラヴィーナはすでにグリーンのスケスケ水着姿になって戻ってきていた。
「えっ!?それならあたしも!あたしも混ぜてっす〜!」
鼻がティッシュでパンパンのリリカも、シャツのボタンを外しながら顔を赤らめて立ち上がる。
――ダンスフロアは完全に修羅場。
俺の理性はピンク色に染まりながら、限界のギリギリをさまよっていた。
しかし次の瞬間、俺の頭に直接、ルルの声が聞こえてきた。
「ダメだよカナメくん。セクシーなことは、いくらでも私がしてあげるんだから、我慢して早く助けに来て!」
その声に目を閉じると、暗い部屋の中椅子に座ったルルが後ろ手を拘束されている姿が映った。
「ルル!!大丈夫か!……」
「早く、大きく息を吐いて、体からスパイスを出すの!」
俺はルルに言われるがまま、思いっきり息を吐くことに集中した。すると、三度目くらいの呼吸で、少しずつ胸毛が抜けていき、五度目くらいの呼吸で、変なインド風のレオタードから元の制服姿に戻った。股間がいつもより固い以外は。
「あら?スパイスの効果が切れるの早すぎですわ!」
俺の異変に気がついたマルティナは踊るのをやめ、残念そうに音楽を切る。
「何だよ、もう終わりか?せっかくこんなスケスケ水着に着替えたのに私がバカみてーじゃねーか」
チラリとラヴィーナの方を見ると、スレンダーだが、スケスケのグリーン水着から色々見えていて俺はドキドキしながら、「ゴメン!」と思わず目を瞑った。
「お姉様のターンは終わったのだから、邪魔しないでくださるかしら」
「分かったよ!」
ラヴィーナが渋々離れていくと同時に俺は言った。
「なあ、マルティナ。もうそろそろ……」
「最後にもう一つだけ、カナメ様と踊りたいのです。お願いできますか?」
「あぁ、もうインド人じゃないし、踊れるかは分からないけどな」
「うふふ、大丈夫ですわ。簡単ですから」
マルティナはわずかに笑みを浮かべながら、俺に手を差し伸べた。
「さあ、カナメ様、最後は私と一緒に……♡」
俺は戸惑いながらもその手を握る。音楽は美しいバラードながら、まだ少しインド風のリズムを刻んでいて、心臓のドキドキと呼吸の荒さが止まらない。
マルティナと近づくと、豊満な胸が俺の体にゆっくり押し付けられ、俺の片手は彼女によってハイレグレオタードの腰にあてがわれる。
「……カナメ様、私、もう我慢できませんわ……♡」
密着した距離で踊るチークダンス。そしてマルティナが顔を寄せ、唇が俺の唇に触れた瞬間、心臓は跳ね上がり、視界がまたピンク色に染まりそうになる。
「あ……ちょ、マルティナっ!」
マルティナはそれ以上俺に声を出させないように、俺の首を抑えて固定し、優しく俺の唇を覆う。
姉ラヴィーナにも劣らない柔らかくて、情熱的なキス、どこかトロピカルな香りがして、高級なマンゴーを思わせる甘いキスに不覚にも全身が痺れてしまう。
ゆっくり唇が離れるとマルティナは俺の耳元にその唇を戻した。……唇が離れたあとも、舌の奥に残る濃厚な甘み。まるで夏の陽射しを閉じ込めた果実のようで、心臓まで熱を帯びていく――。
「……今すぐ別室で♡♡♡できますわよ♡」
その囁きに、俺は猛烈にドキドキしながらも、それでもルルの事が気になる方が勝って、ツッコミを入れる。
「お、おいおいおいおい、いきなりすぎるだろ!!」
マルティナはそんな俺の顔を見ながら顔を赤らめて「わ、私……大胆すぎましたわよね……」と
囁いた。
「あ、ああ」
俺がそう返すとマルティナは、少し体を離し、残念そうに俯く。しかし、そこに変なものが見えたようだ。
「でもまだ、カナメ様、大きいですわよ……」
「うわっ!恥ずかしいから見るな……頼む……」
思わず股間を手で隠した俺に、マルティナはニッコリ笑うと、「それでは、もう一度……」と、どこか切なげに唇をもう一度優しく押し当てる。
彼女のその気持ちを感じて、俺も自然に少し優しく唇を押し当て返してしまい――気づけば、凄く熱いキスになっていた。
(……なんで俺、返しちまったんだ……!?)
――修羅場のフロアの中、凄い興奮と笑いが入り混じるチークダンスのひとときだった。
「はい!時間っす!!マル姉、もう充分やったはずっす!独占するのは卑怯っすよ!!」
背後から大きな声が聞こえた。
振り返ると、鼻ティッシュをズルリと抜いて血を拭き取りながら、「カナメっち!やっとお待ちかねのあたしの番っすよ〜!」と人懐っこく笑うリリカがいた。
次はリリカか。急がないとルルが危ない……。
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