第13話

「……ここで待ち合わせだって、すずなが言ってたな」


昼下がりのファーストフード店。周囲には高校生らしき姿もちらほらあるが、今は放課後のピークを過ぎた静かな時間帯だった。


俺はカウンター席の奥──誰の目にも入りづらい隅で、ひとりの男と向かい合っていた。


神田 直哉(かんだ なおや)。


すずなが付き合っていた──いや、もう“元”と呼ぶべきか──ヤンキー風の男。ピアスに染めた髪、制服を崩した着こなし。威圧感だけは一丁前に纏っている。


「……で? わざわざ呼び出したってことは、文句でもあんのかよ、兄貴サンよォ」


神田は、わざとらしく肘をつきながらニヤリと笑った。


俺はそれに応えず、真っすぐに目を見据える。


「すずなと、別れてくれ」


単刀直入に告げると、神田は「は?」と間の抜けた声を出した。だがすぐに、肩を揺らして笑い出す。


「マジで言ってんの? なに正義マンぶってんだよ。兄貴面もいい加減にしとけや」


「兄貴面じゃない。俺は“兄”なんだよ。あいつのことを泣かせたお前を──許す気はない」


「へぇ? でもあの子、アンタのこと目も合わせてくれないんじゃねぇの?」


神田の笑いが濁ったものに変わる。


「血繋がってないんだって? ハッ、そりゃ欲情もするわな。あんな上玉、そうそういねぇしなぁ? 兄妹って看板掲げてりゃ、手ぇ出さずに済むのも限界ってか?」


──その瞬間、俺の視界が赤く染まりかけた。


だが、拳はまだ握らない。


「……言葉に気をつけろ。お前、ほんとに後悔するぞ」


「後悔? 何を? あの子とヤる寸前まで行った話とか? あの反応はヤバかったぜ、お兄ちゃんにも見てもらいたかったわ」


──ドンッ!


神田がテーブル越しに乗り出してきた。


「なんだよ、テメェ! 怒ったフリか? 妹取られて悔しいのか? でも無理だぜ、あんな女、俺のもんだったんだぜ?」


胸ぐらに手が伸びてきた瞬間、俺は立ち上がっていた。


──ガッ!


握られた腕を逆に捻る。


そして、迷いなく──


「ぐッ……!」


拳が神田の顎を正確に捉えた。


そのまま神田の身体がのけぞり、背後のイスごと倒れこむ。


「お、おい、やべーって……!」


周囲がざわついたが、俺は表情一つ崩さず見下ろした。


「今のは一発だけにしてやる。……次、妹に近づいたら、倍返しにする」


倒れたまま呻く神田を見下ろしながら、続ける。


「二度と、すずなの前に現れるな」


「……チッ、分かったよ。もう近づかねぇよ。あんな女……どうでもいい」


そう吐き捨てるように言って、神田はよろよろと立ち上がり、背を向けた。


店の出口まで、俺は目を逸らさずに見送った。


彼が消えたあと、俺はようやく深く息を吐いた。

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